この連載の目次(全8回・完結)
- 01野球の名前は、同じ列に並んでいないいまここ
- 02昨日の野球は、5つの主語で読める無料会員
- 03大谷翔平の何が異常なのか読み放題
- 04ペナントレースは物語である読み放題
- 05球場の歩き方読み放題
- 06高校野球とドラフトの教養読み放題
- 07「OPSって何?」に一言で読み放題
- 08最終回——野球の話に入る読み放題
朝のニュースは「大谷」から始まり、昼の食堂では「昨日の巨人」が語られ、夏になると「甲子園」が加わって、数年に一度「WBC」で国中が沸く。全部まとめて「野球の話」——なのに、いざ入ろうとすると入口が見つからない。理由は単純で、この4つは同じ種類の名前ではないからだ。選手の名前、球団の名前、球場の名前、大会の名前。層を分けると、野球の話は急に追えるようになる。
- 相手:昨日の野球、見ました? 大谷が打って、阪神も勝ったらしいですよ
- 自分:それって、同じ試合の話なんですか?
- 相手:あ、いや——大谷はアメリカで、阪神は日本ですね。別の試合か
- 自分:選手の名前と球団の名前が、同じニュースに並んでるんですね
今日は5つだけ、名前を元の層へ戻す。選手名鑑も、順位表も、まだ要らない。
名前の種類を分ける
野球でよく聞く5つの名前を並べる。ぜんぶ聞いたことがあるはずだ。そして、ぜんぶ層が違う。
球団
巨人
NPB(日本のプロ野球)の球団。正式なチーム名は読売ジャイアンツで、「巨人」「巨人軍」は公式サイトも使う呼び名
同じ層の名前: 阪神タイガース、福岡ソフトバンクホークス
リーグ
セ・リーグ
NPBの中にある2つのリーグの一つ。正式名称はセントラル・リーグで、6球団が所属する
もう一つがパシフィック・リーグ(パ・リーグ)。こちらも6球団
選手
大谷翔平
選手の名前。球団やリーグと同じ列に並びがちだが、層がまるで違う
所属や成績は動く情報なので、この連載の本文では固定しない
球場名+大会の呼び方
甲子園
正式には阪神甲子園球場という球場の名前。高校野球の全国大会を指す文脈でも使われる
「甲子園を目指す」と「甲子園で観戦」は、指すものが違う
国際大会
WBC
国・地域の代表チームが出場する野球の国際大会。ワールド・ベースボール・クラシックの略
球団でもリーグでもなく、数年に一度の大会の名前
この5つを覚える必要はない。「名前には層がある」ことだけ持ち帰れば、あとは会話のたびに増えていく。
「野球に詳しい」とは、この5層を全部覚えていることではない。いま聞こえた名前がどの層か分かる——入口はそれで足りる。
巨人とセ・リーグ
まず球団とリーグ。日本のプロ野球の運営主体はNPB(一般社団法人日本野球機構)で、その中にセントラル・リーグとパシフィック・リーグという2つのリーグがあり、それぞれ6球団が所属している。合わせて12球団——これが「昨日の試合」の主語たちだ。
巨人はその12球団の一つで、NPB公式の球団一覧での表記は読売ジャイアンツ。公式サイト自身が「巨人軍」という呼び名も使っていて、運営会社の名前は株式会社読売巨人軍。つまり「巨人」という2文字の後ろには、チーム名・呼び名・会社名という細かい層まである。ここまで分ければ十分すぎるほどで、大事なのは「巨人」は球団の名前、「セ・リーグ」はその球団が所属するリーグの名前という一段の違いだ。
球団の名前には型がある。読売(企業)+ジャイアンツ(ニックネーム)。阪神(企業)+タイガース。福岡(地域)+ソフトバンク(企業)+ホークス。企業や地域の名前とニックネームの組み合わせ——この型が読めると、初めて聞く球団名でも構造が見える。12球団それぞれの見分けは第2回で実例から入る。
大谷翔平とMLB
次に選手。大谷翔平は選手の名前で、球団ともリーグとも層が違う。当たり前に聞こえるが、ニュースでは「巨人が勝ち、大谷が打った」と同じ文に並ぶから、初めての人ほど層が混ざる。
そして大谷の名前とセットで聞くMLBは、NPBとは別のプロ野球機構だ。米国とカナダの球団で構成される別のリーグ機構で、日本の12球団とは別の世界でシーズンが動いている。朝のニュースの大谷と、夜のニュースの阪神が「別の試合」なのはこのためだ。
一つ、この連載の約束を書いておく。選手の所属や成績は、本文に固定しない。 移籍もあれば、数字は毎日動く。選手という層は「動く情報の層」で、だからこそ公式サイトで確かめる価値がある——大谷が何をしてきた選手なのかは、第3回が正面から扱う。
甲子園
甲子園は、5つの中でいちばん面白い名前だ。二つの意味で使われている。
一つ目は球場の名前。正式には阪神甲子園球場——1924年に開場した兵庫県西宮市の球場で、NPBの球団・阪神タイガースの本拠地でもある。二つ目は高校野球。全国高等学校野球選手権大会(主催: 日本高等学校野球連盟・朝日新聞社)が夏にこの球場で開催されるため、大会そのものを「甲子園」と呼ぶ使われ方が定着している。
だから「甲子園を目指す」は高校野球の文脈で、「甲子園で阪神戦を見た」は球場の文脈。同じ2文字でも、指しているものが違う。ついでに層の整理をもう一つ——高校野球はNPBとは別の主体が運営する、別の野球だ。プロと高校野球が同じ球場を共有している、という関係になる。高校野球からプロへの道は第6回で扱う。
WBC
最後にWBC。ワールド・ベースボール・クラシックの略で、これは球団でもリーグでもなく、国・地域の代表チームが出場する国際大会の名前だ。主催はWORLD BASEBALL CLASSIC INC.という団体で、NPBともMLBとも別の主体である。
ここで層の総仕上げができる。WBCのときに現れる「日本代表」は、ふだんは別々の球団でプレーする選手が、大会のために集まって編成されるチームだ。巨人のような常設の球団とは、同じ「チーム」でも性質が違う。数年に一度、この大会の期間だけ、野球の主語が球団から代表へ切り替わる——それがWBCの季節だ。
野球好きが何を楽しんでいるか
層が分かったところで、野球好きが試合の何を見ているのかも並べておく。どれか一つ持てば、観戦は追いかけるものになる。
- 球団や選手を継続して見る——昨日勝ったか負けたかではなく、続きものとして見る
- 投手・打者・守備という役割を見る——同じ試合でも、見る役割で別の物語になる
- 数字を一つだけ読む——打率、本塁打、防御率。NPB公式サイトに公式記録がある。全部は要らない、一つでいい
- 一球・一打席の選択を見る——なぜその球を投げたか、なぜ振らなかったか(これは公式の観戦作法ではなく、この記事の目的に合わせた提案だ)
- シーズンのどの段階かを見る——開幕、交流戦、終盤、ポストシーズン。同じ1勝の意味が変わる
- 球場・応援・地域の空気を楽しむ——スタンドの文化は球団ごとに違う
どこにも「知識量を競う」が無いことに気づいてほしい。名前の層と、楽しみ方の一つ。持ち物はそれで揃っている。
入口になる二問
最後に、会話の入口を渡す。この連載で二問コンボと呼んでいるものだ。
「どのチームや選手を、よく見ますか?」
そして、答えが返ってきたら——「どこを見るのが好きですか?」
一問目が効くのは、どの層から入ってもいい形になっているからだ。球団の名前が返ってくる人も、選手の名前の人も、「WBCだけ見る」という人もいる。どの答えも正解で、返ってきた名前の層が分かれば、あなたはもう会話の中にいる。二問目で、その人の楽しみ方——さっきの6つのどれか——が返ってくる。あとは聞くだけでいい。
相手が野球を見ない人なら、そこで畳んで別の話題へ。二問コンボは、野球の話が始まったときに切る札だ。
よく見ますか?」
次の一歩
野球の名前は、同じ列に並んでいない。球団、リーグ、選手、球場、大会——層を分けて聞けば、ニュースも飲み会も、もう迷子にならない。次は第2回で、昨日のニュースに出てくる5つの主語を実際に読み分ける。