大人男子の趣味教養OTONA DANSHI NO SHUMI-KYOYO

SPORTS12球団図鑑広島

広島東洋カープ——三連覇の記憶と、育て直す時間

2016年から3年続けてリーグを制した球団は、主力が抜けたあと、もう一度チームを作り直している。FAで選手を獲らない育成の球団に何が起き、いまどこまで進んだのか。順位の波と見られ方を1ページで。

2016年から2018年まで、リーグ優勝が3年続いた。丸佳浩も鈴木誠也も、ドラフトで獲って自前で育てた主力だった。その後の8年で、丸はFAで巨人へ、鈴木はメジャーへ。広島東洋カープはいま、育てた主力が抜けたあとの、次の核を作り直す時間の中にいる。順位は下がったが、観客席の赤は減っていない——この球団の話は、そこから始めるのがいちばん正確である。

観客席が赤い服の人で埋まった球場を、内野の上段から見下ろした全景。奥に市街地と山並みが見える

MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島2016年3月・広島市。リーグ三連覇が始まった年

スタンドを埋める赤。順位が落ちた年も、この光景は大きくは変わっていない。

Photo: HKT3012 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0リサイズ

QUICK

30秒で分かる球団

01
広島東洋カープは、いまこう見る
  • リーグ・本拠地

    セ・リーグ/マツダ スタジアム

    セントラル・リーグの球団。屋外球場のスタンドが赤い服の観客で埋まる

  • 2016〜2025年

    三連覇、そして流出

    2016〜2018年にリーグ三連覇。その後は丸・鈴木誠也が抜け、Aクラスは2023年の2位だけ

  • 現在の段階

    作り直しの途中

    小園海斗ら次の核を育てている再建期にある

  • 付いている印象

    育てて勝つ球団

    FAで他球団の選手を獲らず、ドラフトと育成で中心選手を作る

DECADE

この10年の順位の波

02
2016〜2025年のリーグ順位
順位補足
20161位25年ぶりのリーグ優勝。日本シリーズは敗退
20171位リーグ優勝
20181位リーグ三連覇。日本シリーズは敗退
20194位
20205位
20214位
20225位
20232位
20244位
20255位

NPB公式の年度別成績による。2025年シーズン終了までを扱う。

前半と後半で、球団が二つに割れているように見える。境目にあるのは、主力の流出である。 三連覇の中心だった丸佳浩は2018年オフにFAで巨人へ移り、翌2019年にチームは4位へ落ちた。4番格に育った鈴木誠也は2021年オフにポスティングでカブスへ渡り、以後の打線は「誠也の穴」を埋める作業が続いた。黒田博樹が日米通算200勝を挙げて引退したのも三連覇初年の2016年で、あの3年間は、いま振り返るといくつもの「最後」が重なった時間だった。

ただし、下がったままの球団でもない。新井貴浩監督の1年目だった2023年には2位まで戻している。落ちても、期待が消えない——ここが、長期低迷型の球団と広島の違いである。

ナイターの球場で、赤いユニフォームの選手たちが監督を胴上げして宙に投げている

2017年、リーグ優勝の胴上げ2017年9月18日・阪神甲子園球場

緒方孝市監督が宙に舞う。三連覇の真ん中の年である。

Photo: Carpawa / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0リサイズ

VIEW

いま、この球団はどう見られているか

「育てて勝つ」が、看板ではなく実態である。 広島はFAで他球団の選手を獲得したことが一度もない球団として知られる。中心選手はドラフトで獲り、時間をかけて主力にする。2020年の森下暢仁、2021年の栗林良吏と2年続けて新人王を出し、高卒1年目の2019年に一軍デビューした小園海斗は、2025年に打率.309で首位打者を取った。親会社を持たない市民球団として生まれた歴史は、いまは「地元の球団」という距離の近さに形を変えて残っている。

三連覇の基準が、いまも期待の下限を支えている。 順位が5位に落ちた2025年でも、主催試合の観客は約204万人入った。成績と動員が連動しにくいのは、三連覇を見た記憶が「またあれが見られるかもしれない」という期待として残っているからだと説明されることが多い。

一方で、補強への不満も根強い。 「育成だけでは足りない」「外国人枠にも空きがある」という声は、低迷が続くほど大きくなる。育った主力の流出が順位に直結してきた球団だからこそ、出て行く選手を止められないなら、入る選手を獲ってほしいという理屈である。育成の誇りと補強への渇望が同居しているのが、いまの広島の空気に近い。

SHARED

野球好きの中で共有されている3つの前提

  1. 補強よりも、ドラフトと育成で中心選手を作る。 FAで他球団の選手を獲ったことがない、という事実が何よりの裏づけになっている。新人王2年連続(森下・栗林)、生え抜きの首位打者(小園)と、実例は現在も続いている。
  2. 三連覇時代の基準が残っているため、再建期も期待が低くならない。 5位の年でも200万人が球場に来る。「弱くなったから客が減る」が、この球団には当てはまりにくい。
  3. 主力の移籍や世代交代が、順位へ直接響きやすい。 丸が抜けた翌年に4位、鈴木誠也が抜けてからは主砲不在が続いた。層で吸収するタイプの球団ではないので、一人の出入りが大きく出る。
背番号51の若い打者が打席でバットを高く構えている。赤いヘルメットに白いユニフォーム、後ろのベンチに赤い服の選手たち

小園海斗2019年3月・プロ1年目の春

入団したばかりの春の一枚。プロ7年目の2025年に首位打者を取る。育つ過程を最初から見られるのが、この球団の応援である。

Photo: shi.k / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0リサイズ

FAN

好きになる理由と、応援していてしんどいところ

若い選手が主力へ育っていく過程を、何年もかけて見られる。高卒で入った小園がレギュラーを取り、プロ7年目に首位打者になるまでを、この球団のファンは最初から見てきた。よその球団が完成品を連れてくるのに対し、広島は未完成から始まる。だから一軍に定着した瞬間や初タイトルの喜びが、他球団より大きい。

しんどいのは、チームが完成に近づいたころ、その構成が変わってしまうことである。三連覇を作った選手たちのうち、丸は巨人へ、鈴木誠也はメジャーへ移り、菊池涼介や會澤翼はベテランになった。育てた時間が長いぶん、抜けたときの喪失も長く尾を引く。育成の球団を応援するとは、「育つ喜び」と「見送る痛み」をセットで引き受けることでもある。