この連載の目次(全8回・完結)
球場のチケットには、いくつも席の種類がある。値段が違うのは分かるとして、何がどう違うのかは、実際に座ってみるまで分かりにくい。同じ試合でも、座った位置によって見えているものが変わる。

明治神宮野球場を内野の上段から見た景色2021年5月・東京都新宿区。この日はプロ野球以外の試合
内野の高い段からは、内野と外野の位置関係が一度に視界へ入る。奥はビル群。
Photo: 江戸村のとくぞう / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(リサイズ)
バックネット裏、内野、外野——見えるものが違う
チケット売り場の座席図は、まず階層で分かれ、その中が位置で分かれている。北海道日本ハムファイターズの公式座席図でいえば、FIELD LEVEL と MAIN LEVEL という階層があり、それぞれにバックネット裏、内野1塁側/3塁側、外野ライト/レフトが並ぶ。
バックネット裏は、投手と打者を正面から見る位置になる。 球がどの高さを通ったか、内寄りか外寄りかが見分けやすい。捕手が構えた場所と実際に来た場所の差も分かる。ただし手前に防護ネットが入るので、視界にはその網が重なる。テレビ中継のカメラも、だいたいこの向きから撮っている。
内野の1塁側・3塁側は、打球の方向と野手の動きを同じ視界に入れられる。 打った瞬間にどこへ飛んだか、誰が捕りに行ったか、送球がどこへ渡ったか。この一続きの動きが追えるのは、この位置である。走者がリードを取る幅や、けん制で戻る動きも見える。少し高い段になると、内野と外野の位置関係まで一度に入る。上の写真がその見え方にあたる。
外野は、打球が自分のほうへ向かってくる席である。 投手の球筋は遠くなる代わりに、外野手が背走する距離や、フェンス際でどこまで届いたかが近い。そして多くの球場では、外野の一角がホーム応援エリア、反対側がビジター応援エリアになっている(第1回)。
どれが良い席か、という順番はない。 球一つの精度を見たい人と、守備の連係を追いたい人と、応援の中にいたい人では、選ぶ場所が変わる。静かに見たい人が外野の応援席を選んで疲れることもあれば、その逆もある。
ブルペンが見える席では、交代が先に分かる
球場の一角にはブルペン——投手が試合中に肩を作る投球練習場——がある。この場所が見える席は、少し違う楽しみ方ができる。
救援投手は、交代が告げられるより前にここで投げ始める。だから誰が投げ始めたかが見えれば、その回にベンチが動くつもりだということが先に分かる。 場内アナウンスより早い情報が、目の前にある。
エスコンフィールドHOKKAIDOの公式座席図には「ブルペンシート」という名前の席が1塁側・3塁側の両方にある。名前がそのまま、何が見える席かを示している。

エスコンフィールドHOKKAIDOのブルペン(1塁側)2023年ごろ・北海道北広島市。試合のない時間
投球板が二つ並ぶ。試合中はここで救援投手が肩を作る。
Photo: 全日本空車 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(リサイズ)
屋根と芝の作りは、球場ごとに違う
球場の条件で、観戦に直接効いてくるのが屋根である。
屋根のない球場では、雨天中止の可能性があり、雨具と防寒が要る。常に屋根のある球場ではそれがない代わりに、外の空気も入らない。その中間として、開閉できる屋根を持つ球場がある。
芝も天然芝と人工芝に分かれる。天然芝は手入れに光と風が要るので、屋根の設計と結びついてくる。エスコンフィールドHOKKAIDOはその両方を組み合わせた球場で、Fビレッジの公式サイトは「日本初の開閉式屋根付き天然芝球場」と紹介している。芝の育成を促すため南側を一面のガラス壁にした、とも書かれている。屋根と芝の条件が、建物の形にまで及んでいる例になる。
同じ公式サイトによれば、この球場は収容人数3万5000人、敷地面積5ha。掘り込み式のフィールドから地上4階まで観客エリアが広がり、球場を一周できるコンコースがある。歩きながらフィールドが見える構造なので、席を離れても試合が切れない。

エスコンフィールドHOKKAIDOを外野側から見た内部2023年ごろ・北海道北広島市。試合のない日で、芝の整備が行われている
手前が天然芝。奥のスタンドは4階まで立ち上がり、上に開閉式の屋根がかかる。
Photo: 全日本空車 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(リサイズ)
エスコンフィールドには、ライト側に TOWER 11 という塔が建っている。Fビレッジの公式サイトによれば、この中に世界初の球場内温泉とサウナ、そして日本初のフィールドが一望できる球場内ホテルが入っている。温泉に面した「ととのえテラスシート」からは試合が見られ、ホテルの宿泊者は部屋にいながら試合を見られる。試合を見に行くのか、そこへ泊まりに行くのかの境目が曖昧になる作りである。
7回の攻撃前に、球場全体が同じほうを向く
一試合のなかで、スタンドの動きがいちばん揃うのは7回の攻撃前である。
多くの球団が、この時間に決まった応援を用意している。内容は球団ごとに違う。 歌う球団もあれば、道具を使う球団もある。ホームチームの攻撃前に行われるのが基本だが、ビジター側も自分たちの攻撃前に同じ時間を持つ。
分かりやすい例が、阪神タイガースのジェット風船だ。球団は公式サイトで、7回裏の攻撃前に飛ばす「ラッキーセブン」の演出を2026シーズンより阪神甲子園球場で再開したと告知している。専用のポンプで膨らませること、指定のタイミング以外で膨らませないこと、といった注意も併せて出ている。
ただし同じ阪神の主催試合でも、京セラドーム大阪ではジェット風船は禁止されている。球団は公式サイトで、京セラドーム大阪と尼崎の球場では引き続き使用できないと案内している。応援の中身は球団だけでなく、その日の球場によっても変わる、ということである。

7回の攻撃前に飛ばされる風船2013年8月・京セラドーム大阪。阪神タイガースの主催試合
スタンドの動きが唯一そろう時間。ただしこの球場では、その後この応援は行われていない。
Photo: Carlo58s / Wikimedia Commons / CC0(リサイズ)
球場そのものが、行き先になっている場合もある
昔の球場は、試合を見るためだけの建物だった。いまはそうでない例が増えている。
エスコンフィールドの周りには「北海道ボールパークFビレッジ」という敷地が広がり、飲食店の集まる区画や宿泊施設が球場と並んでいる。試合の前後にそこで過ごせるので、滞在時間が試合の3時間より長くなる。 敷地が広いぶん、到着してから席に着くまでにも距離がある。
一方で、古い球場には古い球場の見え方がある。阪神甲子園球場は夏に高校野球の全国大会の会場になり、同じ土の上でプロと高校生が試合をする(第6回)。明治神宮野球場は都心にあり、上の写真のように外野の向こうにビル群が入る。建物の新しさと、その球場でしか見られないものは、別の話である。
中継で見る数字が何を測っているのかは、第7回で扱う。
※球場の仕様・座席の名称・応援の扱いは、各球団および北海道ボールパークFビレッジの公式サイト(いずれも2026年8月17日確認)による。