この連載の目次(全8回・完結)
- 01プロ野球12球団は、なぜこんなに雰囲気が違うのか
- 02一試合の空気は、どこで変わるのか
- 03メジャーで活躍する日本人選手——誰が、どのチームにいる?
- 04プロ野球の一年は、いついちばん熱くなるのか
- 05球場は、座る場所と応援で別の場所になる
- 06甲子園の名前は、ドラフトのあとどう続くのか
- 07打率、本塁打、防御率——中継の数字はどこまで見ればいい?いまここ
- 08最終回——WBC決勝、大谷翔平とトラウトの最後の打席
中継の画面には、選手名の横にいくつも数字が並ぶ。球場の掲示板にも同じものが出ている。打率、本塁打、打点、防御率。どれも見たことはあるが、それぞれが何を測っているのかは、並んでいるだけでは分からない。

東京ドームの電光掲示板2010年代・東京都文京区
右下に「打率」「本塁打」「打点」、右端に投球数・投球回・奪三振・防御率が並ぶ。
Photo: 江戸村のとくぞう / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(リサイズ)
打率——打った割合だが、それだけである
打率は、打数のうち何回ヒットになったかの割合である。打数400で安打120なら.300。3割を超えると一流の目安として扱われることが多い。
分かりやすい数字だが、こぼれ落ちるものがある。
2025年のセ・リーグで、規定打席に届いた打者のなかで打率が1位だったのは小園海斗(広島)の.309である。138試合で161安打。文句なく上位の打者だ。
ただし同じ年、小園の本塁打は3本、打点は47だった。
一方、同じ規定到達者のなかで打率が7位だった佐藤輝明(阪神)は.277。打率では小園の下に来る。だがこの年の佐藤は、本塁打40、打点102で、どちらもリーグ1位である。
打率だけを見ると小園が上、本塁打を見ると佐藤が上。 どちらの数字も間違っていない。測っているものが違うだけである。打率は「打ったか打たなかったか」しか数えないので、安打1本と本塁打1本が同じ扱いになる。フォアボールで塁に出ても、打率は上がらない。

広島東洋カープの小園海斗2019年3月・MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島
2025年にセ・リーグの打率1位(.309)になった打者。同じ年の本塁打は3本だった。
Photo: shi.k / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0(リサイズ)
本塁打と打点——打順と、前にいる走者に左右される
本塁打は文字どおり、打った打者が一周してくる打球のことだ。打点は、その打席で自分の打球によって入った点の数である。
打点には、打った本人以外の要素が入る。前に走者がいなければ、本塁打を打っても打点は1にしかならない。逆に走者が二人いれば、外野へのフライ一つで打点が付くこともある。つまり打点は、その打者の前を打つ選手が何回塁に出たかにも影響される。
2025年の阪神を見ると、その効き方が分かる。
| 選手 | 打率 | 本塁打 | 打点 | 四球 | 長打率 | 出塁率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 佐藤輝明 | .277 | 40 | 102 | 57 | .579 | .345 |
| 森下翔太 | .275 | 23 | 89 | 54 | .463 | .350 |
| 大山悠輔 | .264 | 13 | 75 | 74 | .396 | .363 |
数字はNPB公式の2025年度セントラル・リーグ打撃成績による。長打率・出塁率については次の節で扱う。
大山悠輔の本塁打は13本で、佐藤の3分の1以下である。だが打点は75あり、佐藤の4分の3近い。本塁打の数だけでは、打点の差は説明できない。
もう一つ、打率と本塁打が大きく食い違った例がある。第6回で触れた村上宗隆の2年目、2019年である。この年の村上は打率.231で、規定打席に届いた打者のなかでリーグ最低だった。同じ年、本塁打は36、打点は96である。打率だけを見れば苦しい成績で、本塁打だけを見れば主力の成績になる。
防御率——点を許した割合だが、投手一人の話ではない
投手の側でいちばんよく出る数字が防御率である。9イニングを投げるあいだに平均で何点を許したかを示す。数字が小さいほど良い。
ここで数えるのは自責点——投手自身の責任とされる失点で、味方の失策から入った点などは除かれる。ただし「除かれる」といっても、守備の巧拙が完全に消えるわけではない。捕れそうな打球を捕れなければ安打として記録され、そこから入った点は自責点になる。球場の広さも効く。 外野の狭い球場では、同じ打球が本塁打になりやすい。
勝ち星との関係も、そのまま重ならない。2025年のセ・リーグを見る。
| 投手 | 防御率 | 登板 | 勝利 | 敗北 |
|---|---|---|---|---|
| 才木浩人(神) | 1.55 | 24 | 12 | 6 |
| 山﨑伊織(巨) | 2.07 | 25 | 11 | 4 |
| 村上頌樹(神) | 2.10 | 26 | 14 | 4 |
| 東克樹(デ) | 2.19 | 24 | 14 | 8 |
数字はNPB公式の2025年度セントラル・リーグ投手成績による。
防御率で1位の才木浩人は12勝。同じ阪神の村上頌樹は防御率2.10で才木より上の数字ではないが、勝利数は14で多い。勝ち星は、味方が何点取ったかにも左右される。 7回を1失点に抑えても、味方が無得点なら負け投手になる(第2回)。投手の勝敗が、その投手だけの成績ではない理由がここにある。
OPS——塁に出る力と、長く打つ力を足したもの
打率がこぼす部分を拾う数字として、中継でよく出るのがOPSである。
中身は二つの数字の足し算だ。
出塁率は、打席のうちどれだけ塁に出たかの割合である。安打だけでなく、フォアボールやデッドボールで出た分も入る。打率が数えない出方を含んでいる。
長打率は、1打数あたりに何塁ぶん進んだかを示す。単打を1、二塁打を2、三塁打を3、本塁打を4として数える。安打1本を同じ重さで数える打率と違い、長い打球ほど大きく評価される。
この二つを足したものがOPSである。 塁に出る力と、一打で遠くまで行く力を、一つの数字にまとめて見ようという発想だ。計算そのものはこれだけなので、細部を覚える必要はない。
先ほどの2025年の数字に当てはめる。打率1位の小園海斗は出塁率.365・長打率.388で、OPSは.753。打率7位の佐藤輝明は出塁率.345・長打率.579で、OPSは.924。打率では小園が上だったが、OPSでは佐藤が上に来る。
もう一つ見える。大山悠輔は打率.264で小園より4分5厘低いが、出塁率は.363で、小園の.365とほとんど変わらない。理由は四球の数で、大山74に対して小園42である。打率では見えなかった差が、出塁率では見える。
ただしOPSにも限界がある。
数字の大小は、その年やそのリーグの得点環境によって意味が変わる。 全体的に点が入りにくいシーズンと入りやすいシーズンでは、同じ.800の重さが違う。だから「.800なら良い」といった固定の目安を覚えても、あまり役に立たない。同じ年のリーグの中で並べたときに、どのあたりにいるかを見るほうが確かである。
そしてOPSは、あくまで打つほうの数字だ。守備も走塁も入っていない。
数字に出てこないもの
ここまで挙げた数字のどれにも入らないものがある。
守備。 打球を追う一歩目、送球の速さと正確さ、捕手が投手をどう引っ張るか。失策の数は記録されるが、それは失敗の回数であって、うまくいった守備は記録に残らない(第2回)。
走塁。 盗塁の数は残るが、一塁から三塁まで一気に行けたか、外野の返球を見て止まったかは数字にならない。
試合の状況。 10点差の場面での安打1本と、1点差の9回の安打1本は、記録の上では同じ1本である。
だから中継で数字が出たときにできるのは、その数字が何を測っているかを思い出すことまでだ。一つの数字で選手の全体が決まることはない。 掲示板に打率と本塁打と打点が並んで出ているのは、一つでは足りないからである。
連載の最後は、一つの打席に球団も投手も打者も数字も全部が集まった場面を扱う。第8回へ。
※成績はNPB公式の2025年度成績(2026年8月17日確認)による。