この連載の目次(全8回・完結)
第1回で扱ったのは、獺祭45、久保田 千寿、特別本醸造 八海山、白鶴まる。酒売り場で見かけたとき、今夜どれを選ぶかを考えるための4商品だった。今回は少し場所を移し、日本酒専門店や日本酒好きの間で名前をよく聞く6銘柄を見る。十四代、新政、而今、飛露喜、作、鍋島。この6つの名前を、蔵の背景と一杯の味に結びつけていく。
一つの銘柄にも複数の商品があり、すべてが同じ味ではない。この回では、最初に名前を覚えるための中心的な印象を書く。
十四代——華やかな香りと、濃い甘み

十四代 槽垂れ 本生原酒高木酒造(山形県村山市)
(写真は十四代の商品の一つ。本文では銘柄全体の背景と中心的な味を扱っている)
十四代を造るのは、山形県村山市の高木酒造。四百年続く蔵で、いまの代表銘柄がこの十四代である。
十四代が広く知られるようになったころ、日本酒では淡麗辛口が強く支持されていた。そこへ、華やかな香りと厚い甘みを持つ酒として現れ、「芳醇旨口」という別の魅力を印象づけた。香りと甘みが豊かで、一口の存在感を楽しむ酒——それがこの言葉の中身だ。
味の中心は、はっきりしている。フレッシュで華やかな果実の香りが立ち、口に入ると米の甘みが濃く広がる。それでいて、甘さが重く残りすぎない。濃さと、飲み終わりの軽さが同居している。
すっきりした辛口より、香りと甘みをはっきり楽しみたい人に合う。
新政——酸から覚える銘柄

新政 Colorsシリーズ(亜麻猫・涅槃亀・陽乃鳥)新政酒造(秋田市)
(写真は新政の商品の一部。本文では銘柄全体の背景と中心的な味を扱っている)
秋田市の新政酒造は、現在も広く使われる協会6号酵母が見つかった蔵である。七代目は、その6号酵母と秋田県産米、伝統製法の生酛を軸に、昔からある材料と方法から現代的な味をつくった。
新政を覚えるなら、まず酸である。甘みより先に明るい酸が立ち、舌にわずかなガス感が残る。甘さは口の中に重く居座らず、すっと引いていく。昔ながらの日本酒らしい厚みより、白ワインや発泡性の酒に近い軽快さが印象に残る銘柄だ。
酸のある酒や、軽やかな飲み口が好きなら新政が合う。
而今——甘みと酸が、一緒にふくらむ

而今 純米大吟醸 名張木屋正酒造(三重県名張市)
(写真は而今の商品の一つ。本文では銘柄全体の背景と中心的な味を扱っている)
三重県名張市の木屋正酒造は、江戸期から続く蔵だ。それを継いだ六代目が、自ら杜氏となり、蔵の新しい看板として立ち上げたのが而今である。
名前は禅の言葉から採られている。過去にも未来にも囚われず、今をただ精いっぱい生きる——蔵の家訓でもあるこの一語が、そのまま銘柄名になった。
味は、香りだけが華やかなのではない。口の中で甘みと酸、米の旨みが一緒にふくらむ。果汁を思わせる密度があり、後口は輪郭を保ったままきれいに切れる。
果汁感のある日本酒が好きなら、而今が合う。
飛露喜——旨みがあって、最後は切れる

飛露喜 特別純米廣木酒造本店(福島県会津坂下町)
(写真は飛露喜の商品の一つ。本文では銘柄全体の背景と中心的な味を扱っている)
福島県会津坂下町の廣木酒造本店。蔵の継承期に九代目が醸した無濾過の生原酒から、飛露喜の名は広がった。
飛露喜は、軽さよりも米の旨みを先に感じる酒だ。芯に旨みと酸があり、飲んだあとの満足感もある。それでいて最後はきれいな酸が輪郭を整え、重さを引きずらずに切れていく。香りは穏やかで、派手に立つ方向ではない。
濃い旨みと、すっと終わる後味。この二つが同居しているところが、飛露喜を覚えるときの手がかりになる。米の旨みは欲しいが、重さを後まで残したくない人に合う。
作——透明感と、滑らかさ
「作」と書いてざくと読む。造るのは三重県鈴鹿市で長く酒を醸してきた清水清三郎商店で、蔵は酒造りの要として水を掲げている。銘柄名には、作り手だけでなく、飲む人とともに酒を作り上げていくという意味が込められている。
蔵が全商品に共通して掲げるのは、柔らかな味わいとキレの良さ、そしてクリアで洗練された透明感だ。
作は、柔らかな口当たりと透明感で覚えたい。メロンやライチを思わせる果実の香りが穏やかに立ち、米の旨みと酸がバランスよく続く。飲み口は滑らかで、後味はきれいに切れる。
華やかな酒は好きだが、十四代や鍋島のような厚い甘旨さよりも、すっきりと上品な方向を選びたい人に合う。
鍋島——弾けるような甘旨さ

鍋島(Classic さがの華・特別純米酒・純米吟醸)富久千代酒造(佐賀県鹿島市)
(写真は鍋島の商品の一部。本文では銘柄全体の背景と中心的な味を扱っている)
佐賀県鹿島市の富久千代酒造が造る鍋島は、地元の蔵と酒販店が、佐賀を代表する酒を目指して立ち上げた銘柄だ。名前は公募で決まり、佐賀藩主の名から採られている。
蔵が目指す姿は、単に香りが高いのでも辛いのでもなく、やさしく五感を刺激して馴染んでいく「自然体」の酒だという。
口に入ると、まず軽いガス感とフレッシュさがある。そのあとから甘みと米の旨みが大きく広がり、柑橘を思わせる華やかさと、密度のある滑らかさが続く。透明で細い酒というより、一口のボリュームを楽しむ酒だ。
華やかさと飲みごたえを両方ほしい人に合う。
銘柄名から、一杯を思い出す
十四代と鍋島は、どちらも甘旨さが前へ出る。ただし、十四代は濃く滑らかで、鍋島はフレッシュで勢いがある。新政は酸、而今は瑞々しい甘酸っぱさ、飛露喜は米の旨みと切れ、作は透明感が印象に残る。
銘柄名とこの一杯の方向が結びつけば、酒屋やメニューで名前を見たときに味を想像しやすくなる。
同じ銘柄の中で商品がどう違うのかは、記事末尾の日本酒図鑑で一銘柄ずつ扱う。蔵と銘柄の背景、商品ごとの味の違い、ラベルの見分け方、温度や料理まで、そこで詳しく読める。
次回
銘柄の名前が分かると、店のメニューの見え方が変わる。第3回では、日本酒のメニューに並ぶ「冷酒」「冷や」「一合」「辛口」といった言葉の意味を、順に見ていく。