この連載の目次(全8回・完結)
- 01獺祭45・久保田 千寿・特別本醸造 八海山・白鶴 まる——よく見る4本は、どう飲み分ける?いまここ
- 02十四代、新政、而今、飛露喜——人気銘柄は、どんな酒なのか
- 03冷酒、冷や、燗、一合——日本酒のメニューに並ぶ言葉
- 04獺祭45、久保田 千寿、特別本醸造 八海山、白鶴まる——ラベルの肩書きを読む
- 05久保田・八海山、白鶴・菊正宗、賀茂鶴——土地は酒のどこに残る?
- 06冷やす、常温、燗——温度が変わると、日本酒はどう変わる?
- 07しぼりたて、生酒、夏酒、ひやおろし——売り場の季節はどう変わる?
- 08最終回——好きだった一本から、次に飲む酒を探す
獺祭45、久保田 千寿、特別本醸造 八海山、白鶴 まる。スーパーや酒売り場でよく見かける4本だ。名前は知っていても、味や飲みどきの違いまでは意外と分かりにくい。この回では、実際の試飲記録を手がかりに、4本を「どんな日に選びたいか」まで書く。今夜の一本を選べるようになることが、この連載の入口である。
最初の比較——4本の印象
獺祭 純米大吟醸45(株式会社 獺祭・山口) マスカットやリンゴを思わせる香りが先に立ち、甘みのあとを軽い苦みが締める。日本酒の香りを分かりやすく楽しみたい日に選びやすい一本。
吟醸 久保田 千寿(朝日酒造・新潟) 香りは控えめで、澄んでいて後に残らない。酒だけを主役にせず、食事を続けながら飲む一本。
特別本醸造 八海山(八海醸造・新潟) 冷やせばすっきり、温めると甘みがふくらむ。温度を変えながら飲める食中酒。
白鶴 サケパック まる(白鶴酒造・兵庫) まろやかで軽快、飲み疲れしにくい。特別な一本ではなく、家で繰り返し飲む日常酒。
以下は、蔵元の公式説明と、複数の試飲記録(記事末尾の主要参考資料)を重ねた、この記事の編集上の飲み分けである。
獺祭45——香りを楽しむ日の一本

獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分株式会社 獺祭(山口県岩国市)
Photo: Breizhiz75 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(写真は獺祭の別商品「磨き二割三分」。本文で扱う「純米大吟醸45」とは異なるが、獺祭のラベルと瓶の印象が分かる)
最初に立つのは、マスカットやリンゴを思わせる甘く華やかな香りだ。口当たりはなめらかで、米の甘みが広がったあと、余韻の軽い苦みが輪郭を引き締める——獺祭7種を飲み比べた日本酒メディアの記録は、45に「甘みの強い華やかな吟醸香」「ジューシーな果実」という言葉を並べている。
公式の説明は「米由来の繊細な甘みと華やかな香り」。原料は山田錦で、商品名の45は精米歩合45%を指す。公式は保存を要冷蔵、飲み頃を10〜12℃と指定しており、冷やして香りを立たせて飲む前提の酒である。つまみは、日本酒に携わる料理研究家が実飲記事で挙げるトマトのピクルスや甘めのガリのような甘酸っぱいものが合う。
香りを抑えたキレの辛口が好きな人、燗で飲みたい人には、この華やかさは過剰だ。その日は次の2本を選べばいい。
久保田 千寿——食事を続けながら飲む一本

久保田 萬寿 純米大吟醸朝日酒造(新潟県長岡市)
Photo: Kozakura154 / Wikimedia Commons / CC BY 4.0(写真は久保田の別商品・最上位の「萬寿」。本文で扱うのは定番の「吟醸 久保田 千寿」)
千寿の設計は獺祭45の反対側にある。香りは控えめ——久保田10種を飲み比べた編集部の記録は、千寿の香りを「爽やかで青竹のよう」とし、最上位の萬寿より吟醸香が抑えめであることをはっきり書いている。口あたりは透明感のあるクリアさで、飲み込むとすっと消える。
公式はこの商品を「食事と楽しむ吟醸酒」と位置づけ、公式マガジンは「クセのない飲み口で料理の邪魔にならない」と説明する。実飲ベースの記事が挙げる相手は刺身、寿司、しゃぶしゃぶ。温度は軽く冷やすところから常温、ぬる燗まで幅がある。
千寿は、香りを強く楽しむ酒というより、料理を食べながら杯を重ねる酒である。酒だけを利けば地味に感じるかもしれないが、その控えめさが食中酒としての仕事だ。
特別本醸造 八海山——温度を変えながら飲める食中酒

八海山 特別純米原酒八海醸造(新潟県南魚沼市)
(写真は八海山の別商品「特別純米原酒」。本文で扱うのは「特別本醸造 八海山」)
千寿も八海山も、料理と一緒に飲みやすく、冷酒から燗まで楽しめる。違いを出すなら、八海山は温度を変えたときの味の動きが面白い。冷やすとすっきりし、温めると中盤の甘みがふくらむ。
公式の説明は「冷でよし、燗でよしの、八海山を代表する酒です」。酒匠の資格を持つ編集長のテイスティングは、飲み口を「きれいでやわらかく」、中盤にやさしい甘みと旨み、終盤はドライと記し、「温めると、中盤の甘みがより強調されます」と燗での変化まで確かめている。新潟の酒販店の店長も「冷酒でも……お燗酒でもその味わいにブレは無く」と書く。季節や料理に合わせて表情を変えながら、食事の間ずっと付き合える一本だ。
なお、常温では香りがほとんど立たないという試飲記録もある。華やかな香りをグラスで楽しみたい日の酒ではない——それは獺祭45の仕事だ。
白鶴 まる——家で繰り返し飲む日常酒

白鶴 サケパック まる 3L白鶴酒造(兵庫県神戸市)
白鶴 サケパック まるは、2Lや3Lの紙パックで売られている。冷やしても燗でも飲めるため、特別な日に一本を開ける酒というより、冷蔵庫や台所に置いて、普段の食事で少しずつ飲む酒だ。
1984年の発売以来、灘・白鶴酒造が造り続けている。公式は味を「軽快な口当たりと豊かなうまみ」と説明し、「肉や魚など幅広い料理と好相性」と食卓への同席を明言する。試飲記録も方向は一致する。パック酒13種を利いた日本酒メディアの記録は「柔らかくなめらかスッキリした味わい」「後味はキレよく」と記し、パック酒10商品の飲み比べでは「旨味がある」「なにしろバランスがいい」「飲み疲れもしなさそう」という声が並んだ。燗をつけると香りがふわっと開くという記録もあり、公式ページ自身、冷や・常温・ぬる燗・上燗の4温度帯すべてに◎を付けている。
白鶴はこの商品を「売上No.1日本酒ブランド」と掲げる(インテージSRI+調べ・日本酒・2025年1月〜12月累計販売金額・全国計)。獺祭45のように香りを主役にする酒ではない。味が強く出すぎず、食事の横で杯を重ねても疲れにくい。そこが、まるの良さだ。
今夜の一本
- 香りを楽しみたい日は、獺祭45を冷やして
- 食事を主役にしたい夜は、千寿を添えて
- 温度で表情を変えたい季節は、八海山を燗まで
- 何でもない日の食卓には、まるを注いで
4本は味の優劣の階段ではなく、場面の分担である。この分担が見えれば、日本酒選びの入口は越えている。
次回
ここまでは、売り場でよく見かける4商品の話だった。第2回では場所を移して、日本酒好きの間で名前が挙がる銘柄——十四代、新政、而今、飛露喜、作、鍋島——の背景と味を見ていく。