この連載の目次(全8回・完結)
- 01獺祭45・久保田 千寿・特別本醸造 八海山・白鶴 まる——よく見る4本は、どう飲み分ける?
- 02十四代、新政、而今、飛露喜——人気銘柄は、どんな酒なのか
- 03冷酒、冷や、燗、一合——日本酒のメニューに並ぶ言葉
- 04獺祭45、久保田 千寿、特別本醸造 八海山、白鶴まる——ラベルの肩書きを読むいまここ
- 05久保田・八海山、白鶴・菊正宗、賀茂鶴——土地は酒のどこに残る?
- 06冷やす、常温、燗——温度が変わると、日本酒はどう変わる?
- 07しぼりたて、生酒、夏酒、ひやおろし——売り場の季節はどう変わる?
- 08最終回——好きだった一本から、次に飲む酒を探す
第1回の4本を並べると、獺祭45には「純米大吟醸」、久保田 千寿には「吟醸」、八海山には「特別本醸造」と書かれている。白鶴まるには、そのどれも書かれていない。同じ日本酒でも、ラベルの肩書きが違う。この回では、その言葉が何を示しているのかを、4本に沿って見ていく。

水芭蕉 秋酒 純米吟醸ひやおろし永井酒造(群馬県川場村)
Photo: Kozakura154 / Wikimedia Commons / CC BY 4.0(2024年撮影。ラベルに「純米吟醸」の肩書きが入る例)
獺祭45——「純米大吟醸」と「45」
獺祭45のラベルには「純米大吟醸」とあり、商品名に「45」が付く。この数字は精米歩合45%——ここでまず、数字の向きを押さえたい。45%削ったのではなく、45%を残したという意味だ。精米歩合は、磨いたあとの白米が元の玄米の何%にあたるかを示す数値で、45%なら外側を55%削っている。
なぜ削るのか。米の外側には、たんぱく質や脂質が多く含まれ、それらは酒の香りや味にも影響する。どこまで削るかによって、できあがる酒の香りや味の出方が変わる。精米歩合45%は、その磨きの深さを示す数字であって、酒の得点ではない。
肩書きの側も分解できる。「純米」は、米と米こうじだけで造り、醸造アルコールを加えていないことを示す。醸造アルコールとは、でんぷん質や糖質から造られたアルコールで、日本酒では発酵の途中で加えることがある——それを使わないのが「純米」だ。「大吟醸」は、精米歩合50%以下まで磨き、吟醸造り——低温でゆっくり発酵させ、特有の香りを引き出す造り——で醸すという条件を示す。つまり「純米大吟醸」の五文字は、原料と磨きと造り方の申告であって、味の順位や得点ではない。
久保田 千寿——「吟醸」に「純米」が付かない
千寿の肩書きは「吟醸」。獺祭45と見比べると、「純米」の二文字が付いていない。
「純米」が付かないのは、米と米こうじに加えて醸造アルコールを使うためだ。千寿は米を磨き(麹米50%・掛米55%)、吟醸造りで醸したうえで、醸造アルコールを使う——そのため肩書きは「純米吟醸」ではなく「吟醸」になる。
獺祭45と千寿の違いは、ここでも優劣ではない。米だけで造るか、醸造アルコールも使うかという原料の違いと、どこまで磨くかという造りの違いが、そのまま肩書きの違いになっている。ラベルの二文字の有無は、瓶の中身の設計を映している。
特別本醸造 八海山——「本醸造」と「特別」
八海山の肩書きは「特別本醸造」。二つの言葉が重なっている。
「本醸造」は、醸造アルコールを一定の範囲(白米の重量の10%以下)で使える分類だ。醸造アルコールには、香りを引き出し、後味をすっきりさせる働きがある。酒の香味を劣化させる菌の増殖を抑える役割も持つ。醸造アルコールを使うかどうかは、酒の造り方の違いである。「本醸造」は、その造り方をラベルに示す肩書きだ。
「特別」には、ラベルへ表示するための条件がある。精米歩合60%以下まで磨くか、特別な製造方法によるか——名乗るための表示条件が決まっている。八海山は精米歩合55%で、磨きの側からこの条件を満たしている。「特別」の二文字にも、根拠があるということだ。
白鶴まる——肩書きのない一本
最後にまるのパックを見ると、純米も、吟醸も、本醸造も書かれていない。
ここまでの3本が名乗ってきた肩書きは、特定名称と呼ばれる表示で、原料や精米歩合などの条件を満たした清酒だけが名乗れる。まるはこの条件の外にある——原材料に糖類や酸味料も使う造りで、特定名称酒以外の日本酒、一般に「普通酒」と呼ばれる側の商品だ。
肩書きの有無と、味の優劣は別の話だ。特定名称は「どう造ったか」の申告であって、合否の判定ではない。第1回で見た「家で繰り返し飲む日常酒」というまるの役割は、特定名称の肩書きとは別のところにある。肩書きがないことも、その酒を読むための情報になる。
肩書きは、順位ではなく造りの表示
並べ直すと——純米大吟醸の獺祭45、吟醸の千寿、特別本醸造の八海山、そして特定名称の肩書きを持たないまる。
ラベルの肩書きは、日本酒の順位ではなく、何を原料にして、米をどこまで磨き、どのように造ったかを示している。肩書きが読めるようになると、値段や名前の豪華さとは別のところで、その酒がどんな作りなのかを見られるようになる。メニューでも売り場でも、この目はそのまま使える。
次回
ラベルには肩書きのほかに、産地の情報もある。久保田と八海山、白鶴と菊正宗、賀茂鶴——第5回では、新潟・灘・広島を代表する銘柄から、土地が酒のどこに残っているのかを見ていく。