大人男子の趣味教養OTONA DANSHI NO SHUMI-KYOYO

DRINK連載「日本酒の教養」第5回

久保田・八海山、白鶴・菊正宗、賀茂鶴——土地は酒のどこに残る?——新潟、灘、広島を、味と造りから知る

新潟、灘、広島の代表的な銘柄を並べ、土地の酒造りの背景と、現在の酒の印象を一緒につかむ回。

公開 2026.07.20最終確認 2026.08.23
この連載の目次(全8・完結
  1. 01獺祭45・久保田 千寿・特別本醸造 八海山・白鶴 まる——よく見る4本は、どう飲み分ける?
  2. 02十四代、新政、而今、飛露喜——人気銘柄は、どんな酒なのか
  3. 03冷酒、冷や、燗、一合——日本酒のメニューに並ぶ言葉
  4. 04獺祭45、久保田 千寿、特別本醸造 八海山、白鶴まる——ラベルの肩書きを読む
  5. 05久保田・八海山、白鶴・菊正宗、賀茂鶴——土地は酒のどこに残る?いまここ
  6. 06冷やす、常温、燗——温度が変わると、日本酒はどう変わる?
  7. 07しぼりたて、生酒、夏酒、ひやおろし——売り場の季節はどう変わる?
  8. 08最終回——好きだった一本から、次に飲む酒を探す

久保田と八海山は、軽く後味が切れる新潟の酒。白鶴と菊正宗は、家庭の日常酒から燗酒まで広く飲まれてきた灘の酒。賀茂鶴は、香りと柔らかな旨みで覚えたい広島の酒。この5銘柄を並べると、新潟・灘・広島という地名が、味のあるイメージに変わってくる。

久保田 萬寿 純米大吟醸の一升瓶

久保田 萬寿 純米大吟醸朝日酒造(新潟県長岡市)

写真は久保田の別商品。本文では新潟の銘柄としての久保田を扱っている

NIIGATA

新潟——久保田と八海山に残る、淡麗な酒のイメージ

新潟は雪国で、地下水はミネラルの少ないやわらかな水になる。県には日本酒専門の県立試験場があり、蔵の技術指導と研究が長く続いてきた。新潟の酒は、「きれいで、すっきりして、あとに残らない」と評されてきた。淡麗辛口が新潟の代名詞になったのは昔からではなく、ここ数十年で広まった評価だ。

その新潟の像と結びつけて語られることが多いのが、久保田八海山である。

久保田は、軽く、後味が早く切れる。千寿は青竹を思わせる爽やかな香りがあり、萬寿より吟醸香は控えめだ。料理の味を残したまま、杯を重ねやすい。

八海山 特別純米原酒の瓶

八海山 特別純米原酒八海醸造(新潟県南魚沼市)

写真は八海山の別商品。本文では新潟の銘柄としての八海山を扱っている

八海山は、口当たりが滑らかで、冷酒ではすっきり、燗にすると中盤の甘みが少し前へ出る。同じ「新潟の淡麗」でも、久保田の切れとは触り心地が違う。

NADA

灘——白鶴と菊正宗を支えた、大きな酒どころ

住宅街の緑の中に立つ「宮水発祥之地」の石碑
兵庫県西宮市に立つ「宮水発祥之地」の碑(2014年撮影)Photo: Miya.m / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0縮小・WebP変換

兵庫県の海沿い、神戸から西宮にかけての灘五郷は、江戸期から続く酒造りの集積地だ。いまも大手の蔵が並び、全国へ酒を送り出している。

水は新潟と正反対で、宮水と呼ばれる井戸水はミネラルを多く含む硬水である。酒の色や風味を損なう鉄分がほとんど含まれていないことも、この水の特徴だ。かつて灘の酒が「男酒」と呼ばれたのは、その力強さを指した古い通称だ。

白鶴は、御影郷に蔵を構える灘の大手である。第1回で見た紙パックのまるは、特別な一本というより、家庭で冷酒にも燗にも使われてきた日常酒だ。冷や、常温、ぬる燗、上燗のどれにも合わせられ、家庭で飲む温度を選ばない。

赤と白のパッケージに大きく「まる」と書かれた白鶴 サケパック まる 3L

白鶴 サケパック まる 3L白鶴酒造(兵庫県神戸市)

菊正宗の文字が入った煙突のある工場
神戸市の菊正宗酒造の工場(2018年撮影)。煙突に銘柄名が入るPhoto: 岩佐 栄三 / Wikimedia Commons / CC0 1.0縮小・WebP変換

菊正宗は、久保田や八海山より味の押しが強い。すっきり切れるだけでなく、後半に米の厚みを残す辛口で、燗にすると旨みが前へ出る。看板にするのは生酛——自然の乳酸菌の力を借りて酵母を育てる、手間のかかる造りだ。

HIROSHIMA

広島——軟水から吟醸酒へつながった酒造り

白壁の酒蔵とレンガの煙突。煙突に賀茂鶴の文字
東広島市西条の酒蔵通りに立つ賀茂鶴酒造の蔵とレンガ煙突(2008年撮影)Photo: OS6 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0WebP変換のみ

広島の水は、灘とは逆の軟水だ。ミネラルが少ないぶん発酵が進みにくく、かつては酒造りに不利とされた。

その条件に向き合ったのが、明治期の三浦仙三郎である。麹をしっかり育て、低温でゆっくり仕込む軟水醸造法が、広島の酒造りを支えた。のちに広島は吟醸酒の産地としても知られるようになる。

東広島市西条の賀茂鶴は、その広島を代表する銘柄だ。看板の大吟醸は、気品のある香りとまろやかな旨みで知られる。新潟の淡麗さや灘の押し味とは違い、香りと柔らかな旨みを楽しむ酒である。

FROM THE NAME

産地名から、味の方向を思い出す

久保田の切れ、八海山の滑らかさ、白鶴の日常性、菊正宗の押し味、賀茂鶴の柔らかな香り。地域を一語で暗記するより、土地と代表的な一本を組み合わせて覚えるほうが、実際の味に近い。

売り場で新潟、灘、広島の文字を見たとき、そこから思い浮かぶ酒が一本あればよい。

次回

八海山は「冷でよし、燗でよし」、獺祭45は「10〜12℃」。同じ酒でも温度を変えると、味の出方は変わる。第6回では、4本の実例で、冷やしたときと温めたときの違いを見ていく。