この連載の目次(全8回・完結)
冬になると「しぼりたて」が並び、夏には冷やして飲む酒が増え、秋には「ひやおろし」が出る。日本酒の売り場は、季節でここまで顔が変わる。これらの言葉は飾りではなく、開けたときの飲み口を先に教えてくれる。この回では、季節ごとに一本ずつ取り上げて、何を期待すればいいのかを見ていく。

獺祭 純米大吟醸 磨き三割九分(夏仕込しぼりたて生)旭酒造(撮影当時の社名・現 株式会社 獺祭)
Photo: t-mizo / Wikimedia Commons / CC BY 2.0(2011年撮影。ラベルに「しぼりたて」「生」の表示が入る例)
冬——しぼりたては、できたての勢いが出る
日本酒の仕込みは冬が最盛期だ。そのまっただ中に、搾ったばかりの酒がしぼりたてとして売り場へ出る。
八海山しぼりたて原酒「越後で候」は、年に一度、冬に出る季節限定酒だ。アルコール分19度の原酒で、香りも味も濃く、口当たりにはできたての荒々しさが残る。保存は要冷蔵。
丸く落ち着いた酒より、その荒々しさまで含めて楽しむ一本である。
生酒——加熱していない酒の、みずみずしさ
生酒は、季節ではなく造りの言葉だ。日本酒は通常、貯蔵前と出荷前の二回、火入れと呼ばれる加熱処理をする。この加熱を一切しないのが生酒である。
加熱しないぶんデリケートで、要冷蔵が基本になる。
生酒は冬だけのものではない。菊水の「ふなぐち菊水一番しぼり」は、通年で買える生原酒だ。もともと蔵でしか飲めなかった搾りたての酒を、1972年にアルミ缶へ詰めて流通させたのが始まりだ。フレッシュな果実のような香りと、コクのあるしっかりとした旨みがある。コンビニの棚で黄色い缶を見かけたことがあるなら、それが生原酒である。
ラベルの「生」は季節ではなく取り扱いの表示だ。冷蔵で買って、早めに飲む。それが分かっていれば、季節を問わず選べる。
夏——冷やして飲む一本として売られる

特別純米原酒 八海山八海醸造(新潟県南魚沼市)
(6月から8月にかけて出る夏季限定の商品)
夏の売り場には「夏酒」と書かれた棚ができる。ただし夏酒は制度で決まった区分ではなく、蔵ごとに中身は違う。共通しているのは、夏に冷やして飲むことを想定して売られている、という点だけだ。
具体的に見たほうが早い。特別純米原酒 八海山は、6月から8月に出る夏季限定酒だ。辛さを抑えた深い味わいがありながら、飲み口には軽さがある。アルコール分は17度で、香りはふくよか。精米歩合55%、保存は要冷蔵である。
飲み方の提案まで商品に含まれているのが、この一本の特徴だ。冷凍庫で一時間ほど冷やし、50mlほどの小ぶりなグラスで飲む(凍結による容器の破損に注意、との但し書きがある)。原酒でアルコール分は高いのに、きんと冷やして少量ずつ——夏向けの飲み方が、そのまま示されている。
秋——ひやおろしは、夏を越えて丸くなった酒

水芭蕉 秋酒 純米吟醸ひやおろし永井酒造(群馬県川場村)
Photo: Kozakura154 / Wikimedia Commons / CC BY 4.0(2024年撮影。ラベルに「秋酒」「ひやおろし」の季節表示が入る)
秋の売り場でよく見るのがひやおろし、または秋あがりである。写真の水芭蕉 秋酒 純米吟醸ひやおろしのように、ラベルに季節の言葉がそのまま入ることも多い。
冬に搾った酒を、火入れをして蔵で寝かせる。夏を越えると角が取れ、その状態で二度目の火入れをせずに出荷するのがひやおろしだ。夏を越して酒質が上がった状態そのものを、秋あがりと呼ぶ。二度目の火入れを省く形は生詰めと呼ばれ、ラベルにそう書かれることもある。
久保田 千寿 秋あがりは、冬に仕込んだ千寿の原酒を夏まで熟成させた酒だ。搾りたての濃さが、熟成によって丸みのある味へ変わっている。冷やせば千寿らしい切れとやわらかな酸、常温ではとろっとした口当たりと旨みが出る。同じ千寿の名前でも、季節商品では出方が違う。
季節の言葉から、飲み口を想像する
越後で候には、冬のしぼりたて原酒の勢いがある。ふなぐちは、生原酒を通年で買える形にした。夏の八海山は、原酒を強く冷やして少量で飲む提案まで商品に含めている。千寿 秋あがりは、同じ千寿が熟成で丸くなる。
季節の言葉を見たときは、その先にある具体的な一本まで見ると、飲み口が想像しやすい。
次回
最終回では、獺祭が好きなら花陽浴、新政が好きなら仙禽というように、これまで気に入った一本から、次の銘柄へ進んでいく。第8回へ。