この連載の目次(全8回・完結)
行き先を「タイ」「イタリア」と決めたあと、次に困るのは「その中のどこへ行くのか」だ。タイは首都と北部の古都で旅の中身がまるで違うし、ハワイは島を移るのに橋がない。ここでは10の行き先について、首都や中心街の外がどこまで広がっているのかを地図として見ていく。
首都だけでは、その土地の広さは見えない
タイをバンコクだけで覚えると、この国の大きさは出てこない。中央部にはバンコクの王宮と市場のほか、アユタヤの王都遺跡がある。北部にはチェンマイのラーンナー文化とスコータイ、東北部のイサーンには高原と米とメコン川。そして南部の海は、西のアンダマン海と東のタイ湾に分かれている——ここを一括りにしないことが、タイの地理をつかむ入口になる。
韓国も、ソウルで終わらない。首都圏にはソウルの王宮と、近郊に水原の城郭。西南部に全州の韓屋と食、東南部に慶州の新羅遺跡と釜山の港、南の海に済州の火山地形がある。古都、港町、火山島——ソウルから向かう方向で、旅の中身が変わる。
ハワイは、そもそも一つの島ではない。主要8島が北西から南東へ連なり、州都ホノルルがあるのはオアフ島で、ハワイ島ではない。一般に訪問するのはカウアイ・オアフ・モロカイ・ラナイ・マウイ・ハワイ島の6島で、島ごとに主役の地形が違う。そして決定的なのは、島と島の間に道路橋がないことだ。
アメリカ西部は、都市だけの話ではない。太平洋岸北西部の森とカスケード山脈、カリフォルニアの海岸都市、モハーヴェ砂漠のラスベガス、アリゾナ州のグランドキャニオン、ユタ州南部のザイオンやブライスキャニオン、そしてロッキー山脈側のイエローストーン。海岸・山脈・砂漠・峡谷をまたぐ範囲になる。
10の行き先は、どれもこの形をしている。中心街の外に、まだ行ける場所が残っている。
国の中で、首都から古都と海へ
ベトナムは南北に長く、北部・中部・南部で旅の主役が入れ替わる。北部はハノイの旧市街とハロン湾の石灰岩、中部はフエの王朝史とダナンの海とホイアンの旧市街、南部はホーチミン市とメコンデルタの水上生活。三地域を一度に詰め込まなくていい国だ。
台湾は、北・中・南で旅の性格が変わる島である。北部は大都市と夜市と山城、中部は都市建築と自然の組み合わせ、南部は歴史と寺廟と港町。台北を拠点に九份へ出るのが一度目、台南や高雄まで南下するのが二度目、という進み方になる。
イタリアは、南北に長い半島と二つの大きな島でできている。北部はミラノとヴェネツィア、中部はフィレンツェとローマ、南部はナポリとバーリ。シチリア島はパレルモ、サルデーニャ島はカリアリが入口になる。なおローマ市内のバチカン市国と、半島北東部のサンマリノ共和国は、イタリアの都市でも州でもなく別の独立国家である。
タイ・韓国とあわせたこの5つに共通するのは、移動するほど土地の性格が変わることだ。だから一度で一周しようとするより、どの方向へ進むかを先に決めたほうがいい。
島や州をまたぐ
ハワイとアメリカ西部では、移動の単位そのものが大きくなる。
ハワイは島間の移動が主に航空便になるので、全部の島を一続きのドライブ旅程にはできない。ナパリ海岸とワイメア峡谷、ハレアカラ、キラウエア——見たい地形が別の島にあれば、それは別の移動になる。
アメリカ西部では、州をまたぐ距離が問題になる。サンフランシスコとロサンゼルスは同じ州でも性格も距離も大きく違い、ヨセミテは海岸都市ではなく内陸のシエラネバダ山脈にある。グランドキャニオンとザイオンとブライスキャニオンは一つの公園群ではないし、イエローストーンはワイオミング州を中心にモンタナ州とアイダホ州にもまたがっていて、太平洋岸やラスベガスの近郊ではない。
この2つでは、行きたい場所の数より同じ地理圏にまとめられるかを先に見ることになる。
ひとつの都市を深く歩く
シンガポールは、中心部と文化街区と緑と島を重ねて見る。マリーナベイとシビック・ディストリクトでは近未来の景観と植民地期の行政建築が隣り合い、チャイナタウン・リトルインディア・カンポン・グラムの3つの文化街区は宗教施設・市場・食・商いの違いが徒歩圏に重なっている。東にカトンのプラナカン文化と植物園、南にセントーサ島、北東にウビン島。
パリは、セーヌ川を中心に右岸・左岸と複数の街区が重なる。シテ島に歴史的中心、右岸にルーヴル・マレ・オペラ・モンマルトル・シャンゼリゼ、左岸にカルチエ・ラタンとサン=ジェルマン=デ=プレとエッフェル塔側。ルーヴルからテュイルリー、コンコルド、シャンゼリゼ、凱旋門へ伸びる西の歴史軸が、都市の大きな見通しをつくっている。右岸と左岸は、川の流れに沿って下流を向いたときの左右だ。
ニューヨークは5つの行政区からなる。マンハッタンは細長い島を南のダウンタウン・中央のミッドタウン・北のアップタウンに分けて考え、イースト川の対岸がブルックリン、その北東に面積の大きいクイーンズ、マンハッタンの北に本土とつながるブロンクス、港の南西にフェリーで結ばれるスタテン島。自由の女神像とエリス島は、マンハッタン島の中ではなくニューヨーク港の島にある。
この3つでは、名所を一日で線につなぐより、街区を面で選ぶほうが移動のためだけに街を横断せずに済む。
一度の旅で、どこまで広げるか
10の行き先を、動く範囲で並べ直すとこうなる。
| 動く範囲 | 行き先 | 一度の旅で決めること |
|---|---|---|
| 国の中を移動する | 韓国・台湾・タイ・ベトナム・イタリア | どの方向の地方へ進むか |
| 島や州をまたぐ | ハワイ・アメリカ西部 | どの地理圏にまとめるか |
| 都市の中を歩く | シンガポール・パリ・ニューヨーク | どの街区を面で選ぶか |
「どれが上」という順序ではない。同じ日数でも、動く範囲が違えば旅の中身が変わるという整理である。
同じ5日でも、この3つでは中身が変わる。 国の中を移動する行き先なら、都市を2つに絞って鉄道でつなぐ。島や州をまたぐ行き先なら、1つの地理圏に留まる。都市の中を歩く行き先なら、街区を2〜3つ決めて残りは捨てる。日数から逆算する具体的な組み方は第3回が扱う。
行き先図鑑
10の行き先は、それぞれ1ページの図鑑になっている。読み通す必要はない。行き先が絞れてきたら、その1ページだけを開けばいい。全体地図と、地方ごとの見どころと、日数別の組み方が1ページに入っている。