この連載の目次(全8回・完結)
ソウル、台北、バンコク、ホノルル、ニューヨーク。この5つの街を、まず行く地域、そこで見るもの、食べるもの、最後に見る景色の順でたどる。宮殿と市場、古い問屋街と夜市、川沿いの寺、火口の山と浜、公園と美術館——街ごとに、一日の形が違う。
韓国・ソウル|宮殿と市場、最後は南山の夜景へ
韓国の首都。王朝時代の宮殿と、屋台の並ぶ市場と、街を見下ろす山が、地下鉄でつながる範囲にそろっている。
まず向かうのは景福宮(キョンボックン)——朝鮮王朝の正宮だ。正面の光化門の前では、王を守った門番の交代の儀式が復元されている。当時の衣装をつけた守門将たちが、伝統の武具と楽器を持って現れる。
宮殿のすぐ北が北村(プクチョン)だ。王宮と王家の廟に囲まれたこの一帯には、朝鮮王朝の時代からの伝統家屋「韓屋(ハノク)」が数百軒残っていて、いまも茶屋や飲食店として使われている。瓦屋根の重なりを見渡せる場所がいくつもあり、中を見学できる韓屋もある。
昼は市場へ。広蔵(クァンジャン)市場は20世紀の初めに開いた、韓国で最初の常設市場だ。名物はピンデトク——緑豆を石臼でひき、その場で鉄板に流して揚げ焼きにする分厚いチヂミで、外は香ばしく中はほろりと崩れる。ほかにマヤクキンパ(たれをつけて食べる一口サイズの海苔巻き)、トッポッキ、練り物のオムク。2階は韓服と古着の売り場だ。
この街の食堂は、一皿だけを看板にしている店が多い。干しダラのスープならその一杯、ソルロンタンなら骨を煮出したその一杯。品数ではなく、その一皿のために店を決めることになる。
締めは南山(ナムサン)だ。街の真ん中にそびえる山の頂に立つソウルタワーからは、街が360度見渡せる。この街の夜景といえば、まずここになる。
台湾・台北|古い問屋街と、夜市の屋台
台湾の首都。日本から数時間で着き、古い商いの街と、夜の屋台街が同じ一日に収まる。
まず行くのは、台北駅の北側にある古い商業地区大稻埕(ダーダオチェン)の目抜き通り、迪化街(ディーホアジェ)だ。米と茶の交易で育った街で、台湾の茶が海を越えて売れた時代には、この一帯に200軒を超える茶商が集まっていた。
いまも通りには、漢方の薬草、廟に供える線香と祭具、香辛料と乾物、色とりどりの反物、竹や木の細工を売る店が軒を連ねる。棚に何が積んであるかを覗いていくだけで面白い。
通りを一本外れると、建物そのものが見えてくる。この一帯の古い商家は、手作りのレンガと粗く切った石でできていて、川の氾濫に備えて1階が高く嵩上げされている。窓がレンガで塞がれたまま傷んで残る家や、外から眺めるしかない邸宅も路地に混ざる。
食べるなら、通りから少し入った廟の前に出ている屋台へ。名物の鶏捲(ジーヂュエン)は、名前に鶏とあるのに中身は豚肉などで、湯葉で巻いて揚げたもの。廟の木陰に置かれたテーブルで食べる。
締めは夜市だ。松山の饒河街(ラオホージエ)に立つ夜市は、ひと筋の道に屋台が並び、入口から終点まで構造が分かりやすい。端から端まで見れば一巡できる。
タイ・バンコク|寺を見て、川を渡り、夕方の対岸を眺める
タイの首都。王宮と寺が集まる旧市街を、チャオプラヤー川が貫いている。寺を見たあとに船へ乗ると、観光地の裏にある川沿いの暮らしまで見えてくる街だ。
その旧市街は、川と運河に囲まれた一帯にある。古くから人の暮らしが積み重なってきた場所で、王宮と、街を代表する寺がここに集まっている。
見どころの中心はワット・ポー。金箔に覆われた全長46メートルの寝釈迦仏が横たわっていて、堂に入ると一度に視界へ収まらないほど大きい。すぐ近くの王宮の中にも寺があり、タイでもっとも神聖とされるエメラルド仏が納められている。そして川の対岸に立つのがワット・アルン、暁の寺だ。
寺のあいだは船で移れる。川を上下する渡し船から見る岸は、洗濯物が干され、細長い舟が水面に跡を引いていく、生活のほうの景色になる。
食べるものは、屋台だけに絞らないほうがいい。旧市街には何十年も続く食堂がある。パッタイ——米の麺を甘酸っぱいたれで炒めた、タイでいちばん知られた一皿——の名店では、薄焼き卵で包んだものや、海老の脂を効かせた特上が選べる。
締めは日暮れの川辺だ。日が落ちると街の灯が入り、川の向こうでワット・アルンが金色に光り出す。
アメリカ・ホノルル|海と火口、最後はワイキキの夕日へ
ホノルルは、アメリカのハワイ州オアフ島にある。海と火口の山と、各地から持ち込まれた食が混ざった街だ。
中心はワイキキ。いくつかのビーチがつながってできた長い浜で、砂の上からは、この島の目印になっている火口の山が見える。
その山がレアヒ——日本ではダイヤモンドヘッドの名で知られる死火山だ。噴火口の内側から稜線へ上がると、島の南東側が360度見渡せる。足元にワイキキの街と海が広がり、水平線まで何もさえぎるものがない。
食べるのはプレートランチがいい。ごはんを2すくいとマカロニサラダを皿に盛り、そこへカルアポーク(蒸し焼きにした豚肉)、韓国風のバーベキュー、チキンカツ、照り焼きビーフなどから一品を載せる。この島に来た人たちがそれぞれの国の料理を持ち寄って混ざった結果が、一皿に出ている。甘いものならシェイブアイス(細かく削った氷に色つきのシロップをかけ、下にアイスや小豆を沈める)と、ポルトガル由来の揚げドーナツマラサダ。どれもワイキキの外にある、カカアコやカイムキ——食べ物屋の集まる地区——で食べられる。
締めは浜へ戻って夕日を見る。日が沈んだあとも、通り沿いには音楽が流れている。
アメリカ・ニューヨーク|公園と美術館、最後は川越しの摩天楼へ
5つの行政区からなる街だが、初めてならまずマンハッタンの中を動くことになる。通りに番号が振ってあるので、地図がなくても位置がつかめる。遠い地区へは地下鉄で行き、降りてから歩く。これが基本の動き方だ。
一日の中心に置きたいのがセントラルパーク。19世紀に設計された、芝地と林と池でできた大きな公園だ。設計者が唯一きちんと形を整えたのが並木道とベセスダ・テラスで、「市民のための屋外の応接室」として構想された場所である。
その公園に面した五番街に立つのがメトロポリタン美術館だ。世界各地の美術を、5000年分そろえている。なかでもエジプト美術はカイロを除けば世界最大で、神殿がひとつまるごと館内に移されて建っている。一日で見きれる規模ではない。見る部屋を決めて行くのがいい。
食べるものは路面で足りる。ベーグルはいったん茹でてから焼くので、表面がつやつやして、噛むとよく歯を返してくる。モルトや蜂蜜でほのかに甘く、クリームチーズとスモークサーモンを挟むのが定番だ。ピザは1切れから買える。薄い生地を縦に折って食べるのが、ニューヨークの一切れらしい姿だ。パストラミサンドは、胡椒を効かせて燻した牛肉をライ麦パンに高く積んだものだ。
締めは、川の対岸へ移る。ブルックリン側の水辺は公園になっていて、イーストリバーの向こうにマンハッタンの高層ビル群が並ぶ。その手前に架かるのがブルックリン橋だ。日が傾くころ、ビルの窓に灯が入りはじめる。
5つの街を一枚で
| 街 | まず行く場所 | 食べるもの/最後に見る景色 |
|---|---|---|
| ソウル | 景福宮と、韓屋の残る北村 | 広蔵市場のピンデトク/南山からの夜景 |
| 台北 | 問屋街の大稻埕にある迪化街 | 廟の前の屋台の鶏捲/夜市 |
| バンコク | 川沿いの旧市街とワット・ポー | 卵で包んだパッタイ/川向こうのワット・アルン |
| ホノルル | ワイキキの浜と、レアヒの火口 | プレートランチ/浜に沈む夕日 |
| ニューヨーク | セントラルパークとメトロポリタン美術館 | ベーグルとピザ/川越しの摩天楼 |
行き先図鑑へ
ここで見たのは、5つの街の中の一日だ。その街の外にも、古都、港町、島、別の都市が続いている——韓国ならソウルの先に古都と港と火山島があり、台湾なら台北の南に台南と高雄がある。10の土地がどこまで広がっているかは第2回で扱う。
行き先が絞れてきたら、1ヶ所1ページの図鑑を開けばいい。