この連載の目次(全8回・完結)
- 015つの街で知る、海外旅行の一日
- 02海外旅行の行き先図鑑——10の土地を、地図から見る
- 03東京から何時間かかるか——ソウル2時間半、パリ14時間前後
- 04ウィーン、プラハ、ブダペスト、バルセロナ、リスボン——五つの光景いまここ
- 05ポイントと会員資格は別物で、マイルの必要数はANAとJALで決まり方が違う
- 06シンガポールの屋台は、ユネスコの無形文化遺産に登録されている
- 07旅先の物価は、為替と現地の値段の掛け算で決まる
- 08最終回——台北の一日を、迪化街から寧夏路夜市まで歩く
ヨーロッパという言葉は範囲が広すぎて、行き先の見当がつかない。ここでは、ウィーン、プラハ、ブダペスト、バルセロナ、リスボンを、その街で頭に残る光景から見ていく。
まずウィーン。楽友協会の大ホールに入ると、目に入るのは金色である。壁も、柱の女性像も、天井の格子も金で、正面にはパイプオルガンが立つ。毎年元日、ニューイヤーコンサートの中継で映るのがこの部屋だ。
ウィーンは数百年にわたってハプスブルク家の帝国の首都だった。19世紀後半、旧市街を囲んでいた城壁が取り払われてリンク通りが作られ、その沿線に劇場や議事堂が次々と建った。このホールもその一つで、1870年に開場している。帝国の首都が、自分たちの音楽のための部屋を作った時期の建物である。

プラハ——欄干に、彫像が並んでいる
プラハの中心を歩けば、ヴルタヴァ川に架かるカレル橋に出る。石造りの橋で、その欄干に、大きな彫像がずらりと並んでいる。像のあいだを縫うように人が歩き、川の向こうに旧市街の塔が見える。
この橋が架けられたのは14世紀、カール4世の時代である。ところが欄干の彫像は、それから300年ほど後、バロック様式で据えられたものだ。同じ橋の上に、二つの時代が重なっている。
この重なり方が、プラハという街の性格でもある。第二次世界大戦で大規模な破壊を受けなかったため、中世からの建物が壊されずに残った。旧市街広場の市庁舎には15世紀の天文時計があり、時刻に加えて太陽と月の位置を示す文字盤を持つ。歴史地区は、まるごとユネスコの世界遺産に登録されている。
石畳の路地が入り組んでいて、地図を見ながら歩いても方向を失いやすい。ウィーンからは列車で行き来できる。

ブダペスト——冬の公園に、湯気が上がっている
ブダペストの市民公園に、黄色い大きな建物がある。セーチェニ温泉だ。その中庭にあたる部分が屋外のプールになっていて、冬でも湯気が上がっている。水着を着て入る。1913年の開業で、いまも街の施設として使われている。
この街の地下からは、熱い湯が湧く。公衆浴場は日常の場所として定着していて、地元の人が普通に通う。
そしてブダペストは、ドナウ川に二つに割られた街でもある。西岸のブダは丘で、王宮と漁夫の砦が立つ。東岸のペストは平地で、国会議事堂が川沿いに並ぶ。この川岸の景観が世界遺産に登録されている。

バルセロナ——塔の横で、工事が続いている
サグラダ・ファミリアの前に立つと、空へ伸びる塔と一緒に、建設用のクレーンが見える。この教会は、まだ建っている途中である。
アントニ・ガウディが設計を引き継いだのが1883年、亡くなったのが1926年。2026年は没後100年にあたる。着工から一世紀を超えて、いまも工事が続いている。
中に入ると、印象が変わる。柱が上のほうで枝分かれして天井を支えていて、木立の中に立っているように見える。ステンドグラスは方角で色が分けられていて、朝は東側から青と緑の光が、午後は西側から赤と橙の光が差し込む。
ガウディの建築は街のあちこちにある。グエル公園、カサ・バトリョ、カサ・ミラ。19世紀に拡張されたバルセロナの街区は直線と碁盤の目でできていて、その中で曲線を多用した外観が浮き上がって見える。市街地から地下鉄で20分ほどで、バルセロネータのビーチに出る。

リスボン——坂を、黄色い市電が上がってくる
リスボンの路地に立っていると、坂の下から黄色い小型の車両が上がってくる。28番の市電だ。旧型の車両が使われている区間があり、アルファマ地区の細い路地を建物すれすれに走る。観光専用ではなく生活路線なので、住民も乗る。
リスボンはテージョ川の河口に面した丘の上に広がっていて、市街の起伏が激しい。坂と階段が多く、市電はその坂を上り下りする交通機関として使われてきた。
その街の形を決めた出来事が、1755年のリスボン地震だ。市街の大半が倒壊し、その後に再建された下町のバイシャ地区は碁盤の目に作り直された。一方、アルファマは被害が比較的小さく、中世からの路地がそのまま残っている。同じ市内で街区の形がはっきり違うのは、このためだ。
夜になると、アルファマの店でファドが演奏される。ギターと歌の音楽で、ユネスコの無形文化遺産に登録されている。

次回
行き先が決まったら、泊まる場所と航空券の手配がある。第5回では、ホテルと航空会社の会員制度を見ていく。