この連載の目次(全6回・完結)
- 01甘口と辛口、酸、旨み、キレ——日本酒の味を表す言葉
- 02十四代、新政、而今、飛露喜、作、鍋島——人気銘柄は、どんな酒なのか
- 03香りのある日本酒——果実のような香りと、飲んだときの味
- 04酸のある日本酒——甘酸っぱさ、旨み、口当たり
- 05新潟・灘・広島——土地の酒づくりと、代表的な酒
- 06生酒と熟成した日本酒——搾りたてから秋あがり、長く寝かせた酒までいまここ
搾ったばかりの酒と、寝かせた酒では、味が違う。八海山の「越後で候」は冬にしか出ないしぼりたての生原酒で、久保田 千寿の「秋あがり」は、冬に仕込んだ原酒が夏を越した酒だ。雪室で三年寝かせた八海山や、黒龍の「石田屋」は、さらに長い時間をかけている。
搾りたて——八海山 越後で候
八海醸造の「八海山しぼりたて原酒 越後で候(えちごでそうろう)」は、酒造りの最盛期に出る冬季限定の生原酒だ。蔵の説明では、フレッシュで荒々しい、しぼりたて原酒ならではの飲みごたえと、さわやかな香味のバランスがある。
ラベルの「原酒」は、搾ったあとに水を加えていない酒のことで、「生酒」は、火入れと呼ばれる加熱を一度もしていない酒のことだ。日本酒はふつう、貯蔵の前と出荷の前に二回火入れをする。「しぼりたて」は、搾ってから間もない酒に蔵が使う言葉で、越後で候には、この三つが重なっている。
同じ蔵が冬に一度だけ出す純米大吟醸の越後で候を、蔵は、しぼりたてのフレッシュさと、純米ならではのまろやかさ、洗練された旨みを追求した酒と説明し、香りはみずみずしい、と書く。
ふなぐち、特別純米原酒 八海山——缶の生原酒と、夏の原酒
菊水酒造の「菊水ふなぐち」は、缶に入った本醸造の生原酒だ。蔵でしか飲めなかった搾りたての生原酒を、1972年に、割り水も火入れもせずにアルミ缶に詰めて出したのが始まりである。蔵の説明では、できたての生原酒にはフレッシュな果実のような香りと、しっかりとした旨みがあり、缶の中で時とともに熟成が進むと、まろやかになって、ブランデーのようなコクへ移り変わる。

特別純米原酒 八海山八海醸造(新潟県南魚沼市)
同じ八海醸造が夏だけ出す写真の「特別純米原酒 八海山」は、水を加えない原酒だが、生酒ではない。瓶に詰めるときに火入れをしない生詰の酒で、辛さを抑えた深い味わいと軽さがある、と蔵は説明する。
夏を越した酒——久保田 千寿の生原酒と、秋あがり
久保田 千寿には、冬だけの「千寿 吟醸生原酒」と、秋の「千寿 秋あがり」があり、朝日酒造は、秋あがりの熟成前の原酒が吟醸生原酒だと説明している。搾りたてと、夏を越した酒の違いを、同じ原酒で確かめられる。
生原酒には、搾りたてのフレッシュな口当たりと原酒ならではの濃厚な味わい、力強い香りがあり、千寿本来の飲みやすさとキレもそのまま残る。その原酒を火入れして夏を越え、秋まで熟成させた秋あがりでは、濃厚でしっかりした味わいが、丸みを帯びた、よりまろやかな味わいに変わる、と蔵は書く。
長く寝かせた酒——雪室貯蔵三年と、石田屋
千寿の秋あがりが冬から秋までの時間なら、年の単位で寝かせる酒もある。八海醸造の「純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」は、冬に積もった雪を蓄えて低温を保つ貯蔵庫「雪室」で、三年寝かせた酒だ。蔵の説明では、雪室で三年寝かせることでまろやかさが増し、きれいな吟醸香とともにすっきりとした味わいが生まれる。
福井の黒龍酒造が造る黒龍の「石田屋」は、純米大吟醸を低温で熟成させて、年に一、二回だけ出す限定品だ。蔵は、低温の熟成でうまさとまろやかさが加わり、香りは穏やかになると書き、蔵が公式サイトに載せるソムリエの解説では、熟成が引き出した滑らかな口当たりに、凛としたフレッシュな酸があって、全体は淡麗である。