この連載の目次(全8回・完結)
ワインには、置いた時間で変わるところと、摘んだ年でもともと違うところがある。棚に並ぶ一本は、その両方を抱えている。
白も、置くと変わる
熟成というと赤の話に聞こえるが、白も動く。ロワールのヴーヴレの甘口は、柑橘や洋梨、プラムの香りで出発して、時間が経つと焼いたアーモンド、蜂蜜、マルメロ、焼き菓子のスパイスが現れる。豊かで繊細な口当たりに、その香りが溶け合う。同じロワールのサヴニエールは、瓶で数年を過ごしてはじめて本領を発揮する白だ。
ブルゴーニュ北端のシャブリでも、プルミエ・クリュには、熟成によって繊細さと優雅さを保ったまま香りが華やかに広がるものがある。
赤では、渋みの手触りが動く。キャンティは、辛口で旨味があり、若いうちはわずかに渋い。その渋みが時間をかけて柔らかく、ビロードのような手触りへ変わっていく。
若いうちに飲むために造る
トスカーナのモンタルチーノでは、同じ畑から二つの呼称のワインを造ることが認められている。長く熟成させるブルネッロ・ディ・モンタルチーノと、もっと若いうちに飲むロッソ・ディ・モンタルチーノだ。使うブドウはどちらもサンジョヴェーゼである。
ロッソは、澄んだルビー色で、香りには新鮮な果実が立つ。味は調和が取れていて辛口、活力と新鮮さがあり、後味もよく続く。長く置くためのものではなく、若いうちに飲まれることを好むワインだ——置けないわけではないにしても。同じ畑から出るブルネッロとは、はじめから別のものとして造り分けられている。
ボルドーにも、そのために設計された赤がある。「軽やかでフルーティ」と呼ばれる型は、まっすぐに弾ける果実味が主役で、ひと口目から最後の一滴まで爽やかさが続く。熟成の期間を短くとって、果実の純度をそのまま出すための造りだ。ブルゴーニュでも、何年かセラーに置いて頂点に達する瓶と、ごく若いうちに飲める瓶が同じ産地の中に並んでいる。
買った時点で、もう何年か経っている

棚に並んでいる瓶には、造り手の手元で何年も過ごしたものがある。ブルネッロは、木の樽と瓶で数年間、造り手のもとで熟成させてから出荷する。買った人が置く時間の前に、造り手が置く時間がある。
シャンパーニュも、買った時点ですでに熟成を経ている。造り手のカーヴで何か月も寝かせたうえで出てくるので、第5回で触れたパンやブリオッシュの匂いは、棚に並んだ時点でもう乗っている。
ラベルの4桁は、摘んだ年を指す

ラベルに刷られた4桁は、瓶詰めの年でも発売の年でもなく、ブドウを摘んだ年を指す。何年置かれたかとは別に、出発点そのものが年ごとに違う、ということである。
キャンティ・クラシコの2022年は、暑さが夏を通して続き、8月半ばの雨がそれをやわらげた年だった。2023年は雨の多い春にべと病が出て、そのあとに暑さが来た年だ。条件はかなり違う。それでも収穫直後に試された段階では、どちらの年も釣り合いが取れて、渋みは熟して柔らかいほうに見えていた。
シャブリの2022年は、まだ仕込みの途中の段階で、熟した果実や洋梨、桃の香りを見せながら、フレッシュさを保っていた。一方、2011年は、きりっとして香り高いものと、力強く塩気のあるものが、同じ年の中に並んだ。
シャンパーニュでは、西暦の有無が別のことを指している。西暦を入れたものはその年のブドウだけで造り、入れないものは複数の年のワインを合わせる。どちらを出すかを決めるのは、造り手である。
次回
最終回では、日本で造られている赤と白を、山梨から長野、北海道まで見ていく。