大人男子の趣味教養OTONA DANSHI NO SHUMI-KYOYO

DRINK連載「ワインの教養」第3回

ボルドー、ブルゴーニュ、トスカーナ、ナパ、チリ——有名な産地の赤は、どう違うのか——品種、香り、酸と渋み、口当たり

名前をよく聞く5つの産地の赤。ボルドーはカベルネとメルロを混ぜて渋みが骨格になり、ブルゴーニュはピノ・ノワールで色が淡く、トスカーナのサンジョヴェーゼは酸が立つ。ナパは熟した黒い果実、チリはカルメネール。それぞれの産地の中の幅と、代表的な一本まで。

公開 2026.07.20最終確認 2026.09.09
この連載の目次(全8・完結
  1. 01渋い、軽い、コクがある——ワインの説明は、どんな味を指しているのか
  2. 02アルパカ、イエローテイル、コノスル、タヴェルネッロ、フロンテラ——身近な5ブランドは、どんなワインなのか
  3. 03ボルドー、ブルゴーニュ、トスカーナ、ナパ、チリ——有名な産地の赤は、どう違うのかいまここ
  4. 04ワインの値段——畑、造り手、熟成に払うもの
  5. 05シャンパーニュ、プロセッコ、カヴァ——泡のワインの味と香り
  6. 06甘口のワイン——甘さと、それを切る酸
  7. 07熟成と収穫年——置いて変わるものと、はじめから違うもの
  8. 08日本のワイン——甲州から、長野のメルロー、余市のケルナーまで

ワインの棚やリストで、名前をよく見る産地がある。ボルドー、ブルゴーニュ、トスカーナ、ナパ・ヴァレー、チリ。どれも赤で知られているが、使う品種が違い、渋みの出方も口当たりも違う。

BORDEAUX

ボルドー——渋みが骨格になる赤

畝の間に丸い砂利が敷き詰まったポイヤックの畑。両側にブドウの木
ポイヤック、シャトー・ラトゥールの畑。畝の間は丸い砂利で埋まっている。6月撮影Photo: Remi Mathis / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0リサイズ

ボルドーの赤は、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルロを主に混ぜて造る。一品種で仕上げるより、複数を組み合わせるのがこの土地のやり方だ。産地はフランス南西部、大西洋へ注ぐジロンド川の両岸に広がっている。

グラスの色は濃い赤紫。カシスとプラムの黒い果実に、杉や鉛筆の芯を思わせる乾いた匂いが乗る。飲むと渋みが前に出て、口の中が乾く。酸もはっきりしている。

川の左岸と右岸では、主役の品種が入れ替わる。左岸のメドックは砂利の多い土地で、カベルネ・ソーヴィニヨンが中心になり、渋みが立つ。ポイヤックの赤はブラックチェリーと甘草、杉の香りを持つ力強い赤で、隣のマルゴーになると渋みがしなやかになり、果実の香りが前に出る。右岸のサン・テミリオンとポムロールはメルロが主体だ。口当たりはまろやかで、後味に軽い酸が残る。ポムロールの赤には、スミレと小粒の赤い果実にトリュフの香りが重なる。

村の名前を持たず「ボルドー」とだけ名乗る赤も多く、量ではこちらが中心である。多くは軽やかで果実味が前に出て、渋みは柔らかい。日本の棚でも見かけるムートン・カデの赤がこの型で、熟したチェリーとラズベリーの香りに、ジューシーな口当たりを持つ。

BOURGOGNE

ブルゴーニュ——色が淡く、赤い果実が前に出る

ブルゴーニュの赤は、ピノ・ノワール一品種で造るのが基本だ。フランス東部を南北に細長く続く産地で、白も多い。

グラスに注ぐと、赤なのに向こう側が透けて見えるほど色が淡い。イチゴやチェリー、ラズベリーの赤い果実に、胡椒やシナモンのような香辛料が重なる。渋みは軽く、舌に引っかからない。前に出るのは果実の香りのほうだ。

村の名前が付くと、輪郭が変わる。北のコート・ド・ニュイにあるシャンボール・ミュジニィは、口当たりが絹やレースに例えられるほど柔らかい。同じ帯のニュイ・サン・ジョルジュになると、コクと骨組みが出て余韻が長い。南のコート・ド・ボーヌのポマールは色が深く、若いうちの渋みがごつごつしている。ルイ・ジャドのポマールがその一本で、ピノ・ノワールでもこれだけ渋みの立つ赤になる。

「ブルゴーニュ」とだけ名乗る一本は、明るいルビー色で、ラズベリーや赤スグリの香り。渋みと果実味の釣り合いが取れている。

TOSCANA

トスカーナ——酸と渋みが、両方はっきりある

イタリア中部のトスカーナで、赤の主役になっているのはサンジョヴェーゼという黒ブドウだ。

香りはスミレとサクランボが中心で、プラムやブラックベリーが加わることもある。飲むと酸が前に立ち、渋みは布の織り目のような手触りで続く。酸と渋みの両方が出るのがこの品種で、若いうちは硬く、時間をかけてまろやかになる。生ハムや炭火で焼いた肉の脂のあとをすっきりさせるのは、この二つである。

州の中では、呼び名によって味も分かれる。キャンティを名乗る赤はルビー色で、渋みは軽く、口当たりは辛口。名前の近いキャンティ・クラシコは別の産地で、香りが花の方へ寄り、アヤメとスミレが立つ。アンティノリのペポリは、赤い果実にバラの花と土の匂いが混じって、酸が余韻まで続く一本である。

州の南、モンタルチーノへ行くと、サンジョヴェーゼはブルネッロという名で呼ばれる。ここの赤は辛口で温かく、少し渋くて力強い。海沿いのボルゲリになると主役が替わり、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローを混ぜた赤になる。

NAPA

ナパ・ヴァレー——熟した黒い果実

ナパ・ヴァレーの赤といえばカベルネ・ソーヴィニヨンで、この谷でいちばん多く植わっている品種でもある。サンフランシスコの北にある細長い谷だ。

香りの中心はブラックチェリーとブラックプラム。そこにタバコと、鉛筆の芯のような匂いが混じり、樽で寝かせるあいだに焼き菓子のスパイスが加わる。若いうちは口の中で密に詰まっていて、力がある。ケイマスの赤は、熟したブルーベリーとカシスにリコリスとカカオが重なり、口当たりは滑らか。渋みは苦みを残さず手触りとして出て、酸は釣り合いを取るだけあって前には出ない。

谷は南北に細長く、南の端と北では気候が違う。南はサン・パブロ湾に開いていて涼しく、シャルドネとピノ・ノワールの土地になる。ここのピノは熟して丸みを帯び、チェリーを軸にしたリッチな味わいになる。北へ行くほど夏の日中は暑くなる。

植わっているのはカベルネだけではない。メルローもあり、こちらはカベルネより口当たりがなめらかで、果実が前に出る。ダックホーンのナパ・ヴァレー メルローは、花の香りと濃い赤い果実を持つ一本だ。

CHILE

チリ——棚の主力と、カルメネール

赤橙から金に紅葉した畝が画面いっぱいに広がり、奥に木立と霞んだ山塊
ビーニャ・ティパウメのカルメネールの畑。葉が赤や金に色づいた5月に撮影Photo: FRPGCHILE / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0リサイズ

チリの赤で、この国の顔になっているのがカルメネールだ。南米の西側、太平洋に沿って細長く伸びる国で、日本の棚では手頃な赤の産地として知られている。

色は濃いガーネット。ブラックベリーやプラムに黒コショウが効いて、コーヒーやビターチョコレートのような焙煎の匂いが後ろにつく。そこへピーマンのような青い匂いが差す。この品種につきものの香りだ。酸は控えめ、渋みは穏やかで柔らかく、口当たりはなめらかである。

カベルネ・ソーヴィニヨンも広く造られている。首都サンティアゴに近いマイポは、この品種の産地として知られる谷で、ここのカベルネは骨格のはっきりした渋みを持つ。南のコルチャグアでは太平洋の風が谷に入り、ブドウがゆっくり熟して酸が残る。

畑は北の乾いた高地から、夏でも風の冷たい南まで散らばっていて、南へ行くと赤の顔ぶれも変わる。夏でも寒く風の強いビオビオではピノ・ノワールが育ち、海に近いサンアントニオにもこの品種の畑がある。コノスルがサンアントニオから造るグリーンソサエティのピノ・ノワールは、ラズベリーやブラックベリーの香りに、心地よい酸とやわらかい渋みを持つ。

次回

同じ棚に、価格の桁が違う一本が並んでいる。第4回では、その差が何を指しているのかを見ていく。