この連載の目次(全8回・完結)
棚の甘口には、アルコールが5%台の微発泡の白も、貴腐の付いた実から搾った琥珀色の一本も、発酵を途中で止めて度数を上げた赤もある。甘さの濃さも、その甘さを支えているものも、一本ずつ違う。
モスカート・ダスティ——甘いのに、軽い
イタリア北西部ピエモンテのモスカート・ダスティは、アルコールが低い。泡も控えめで、しっかり泡立つアスティ・スプマンテとは別の商品として売られている。
マスカットそのものの華やかな香りが立ち、甘さははっきりしている。それでいて味は均衡していて、飲み口が軽い。
日本の棚では、サンテロのディーレが微発泡の甘口として並ぶ。マスカット由来の香りが前に出る一本だ。
ドイツのリースリング——糖を残しても、輪郭が残る

ドイツのリースリングには、糖を残したまま仕上げるものが多い。
モーゼルのフリッツ・ハークが出すブラウネベルガー・ユッファーのカビネットは、桃と洋梨の果実味に、繊細な花の香りが乗る。軽やかさと甘さと酸が同じところで釣り合っていて、甘口と呼ばれてはいるが、口の中に居座らない。高い酸が、残った糖に輪郭を与えている。
甘い香りと甘口が別のものであることは、第1回で見たとおりだ。「辛口」の表示も、糖がまったく無いという意味ではない。
濃い甘口——ソーテルヌ、遅摘み、アイスヴァイン

ボルドーのソーテルヌは、パイナップルやマンゴー、アプリコットの果実に、蜜蝋を思わせる匂いが混じる。口に含むと厚みがあり、それでも後味は締まる。合わせる相手もデザートに限らず、魚介や白身の肉、青カビのチーズまで届く。この甘さは、ボトリティスというカビが取り付いて水分の抜けた実から来ている。
ニュージーランドのマールボロでは、セント・クレアがドクターズ・クリークの貴腐リースリングを出している。陽に熟したあんずと干しいちじくの濃い甘さの下に、生姜のような刺激が残る。
アルザスのヴァンダンジュ・タルディヴは、実を樹に残したまま完熟を越えさせてから摘む。リースリングの遅摘みは、まろやかで甘美な白になるが、そこに美しい酸があって、豊かさと繊細さのあいだで釣り合う。ピノ・グリの遅摘みでは、口当たりが絹のようになめらかで、その下を酸の骨組みが支える。
ドイツのアイスヴァインは、実を樹に残したまま凍るのを待って摘む。凍ったまま搾ると、水は氷のまま残り、出てくる果汁が濃くなる。こちらには貴腐に特有の匂いがない。残るのは、フレッシュで凝縮した果実味と、酸と甘さの並外れた濃さである。
ポート——発酵を途中で止める
ポルトガルのポートは、発酵の途中でブドウのブランデーを加えて発酵を止める。糖が残ったところで止まるので、その甘さがそのまま瓶に入る。酒精を加えるぶん、アルコールの強さもある。
ニーポートのルビーポートは、新鮮なチェリーや赤い果実を思わせる香りが立つ。豊かな酸と甘さが釣り合って、余韻が長く続く。濃い赤の色と、若いうちの果実味と力を保つように造られた側のポートだ。
木樽で年月を過ごすトウニーになると、色はゆっくり黄褐色へ寄り、ドライフルーツと木の香りが乗ってくる。同じニーポートの10年は、オレンジやレモンの皮、タフィーやカラメル、蜂蜜の香りが、驚くほど長く残る一本だ。
どれだけ甘くなるかは、発酵をどこで止めるかで決まる。極甘口から辛口まで幅があって、ポートには辛口のものもある。
次回
第7回では、置いた時間で味がどう変わるのか、そしてラベルに刷られた収穫年が何を指しているのかを見ていく。