この連載の目次(全8回・完結)
ワインの説明には、渋い、酸がある、フルーティ、コクがある、といった言葉が並ぶ。どれも日本語として難しくないのに、実際に口へ入れたときのどの感じを指しているのかは、はっきりしない。
渋い——口の中が乾く感じ

赤ワインの説明に出てくる「渋い」は、苦いとは別の感覚を指す。
苦味は、舌が受け取る味そのものだ。ブラックコーヒーやビールの後味がそれにあたる。渋みのほうは、味というより手触りに近い。口に含んだあと、舌の表面や歯茎の内側が乾いて、粘膜がきゅっと縮むような感じになる。濃く出した緑茶を飲んだあとの、あの引っかかりだ。渋みのもとはタンニンという成分で、果皮や種から来る。
渋みの出方は、品種で大きく変わる。カベルネ・ソーヴィニヨンは粒が小さく、果皮が厚い。渋みは強く出て、口に含むと張りつめ、飲み込んだあとも乾いた感じが残る。ボルドー左岸やナパ・ヴァレーの赤がその代表で、この渋みが味わいの骨格になっている。
ピノ・ノワールは違う。渋みはちゃんとあるのに、口の中を強くこすらない。ブルゴーニュの赤は、渋みが無いのではなく、当たりが柔らかい。
渋みは時間でも動く。若いうちは硬く、年を経ると角が取れて滑らかになる。同じ一本でも、開ける時期で手触りが変わる。脂の乗った肉を一口食べてから飲み直すと、さっきまで強かった渋みが収まって感じられる。渋みのある赤に肉が薦められるのは、この釣り合いによる。
酸がある——酸っぱさと、すっきりした飲み口
もう一つ、白の説明でよく出るのが「酸」だ。口の中では、酸っぱさとして、また爽やかさとして感じられる。
ソーヴィニヨン・ブランの白は、この酸がはっきりしている。柑橘をかじったような鋭さがあって、後味が引き締まる。ブルゴーニュ北端のシャブリで造るシャルドネも同じで、酸が一本まっすぐ通っていて、口当たりが締まっている。
赤にも酸はある。トスカーナのサンジョヴェーゼは、渋みと同じくらい酸がはっきり立つ品種だ。
逆に、酸が前に出ない赤もある。メルローは渋みの角が立たず、酸も比較的低い。口当たりがやわらかく感じられるのは、この二つが重なっているからだ。よく冷やすと酸ははっきりと感じられ、温度が上がると香りのほうが前に出る。
甘い香りと、甘口は別のもの
「フルーティ」「甘い香り」と書かれていても、そのワインが甘口とは限らない。
メルローの赤には、チェリーやプラム、イチジクを思わせる熟した果実の香りがある。こうした甘い香りは、辛口のワインにも感じられる。棚でよく見る[イエローテイル]のシラーズも、熟した果実の甘みが前に出るのに、商品情報では辛口に分類されている。
バニラやトーストのような甘い匂いは、また別のところから来る。樽で寝かせたワインに移る香りで、赤にも白にも出る。
甘口のワインでは、糖が残っている。リースリングには辛口も甘口もあって、甘口のほうは口に含むと蜜のような風味が広がる。ただしこの品種は、どちらに造っても酸が高い。甘さが高い酸に支えられているので、甘いのに間延びしない。
軽い、厚みがある、コクがある
「軽い」「重い」「コクがある」は、口に入れたときの厚みの話だ。色の濃さや甘さ、アルコールの度数のどれか一つで決まるわけではない。
分かりやすいのはシャルドネの白である。フランス北部のシャブリで造るシャルドネは、酸がまっすぐ通っていて、口当たりが締まっている。棚でよく見る[イエローテイル]のシャルドネは、同じ品種でもメロンと白桃の香りにバニラが下支えして、口当たりがクリーミーだ。口の中を満たす感じが、これだけ変わる。この厚みが「コクがある」と言われている部分である。
色の濃さは、そのまま重さの目安になるとは限らない。メルローの赤は口当たりがやわらかいが、色は濃く、アルコールも高めに出る。やわらかさと軽さは別のものだ。
軽い赤もある。イタリアのタヴェルネッロのロッソは、赤い果実の香りに穏やかな渋み、口当たりが軽い。食事の味を押しのけないのは、この軽さによる。
次回
第2回では、スーパーでよく見るアルパカ、[イエローテイル]、コノスル、タヴェルネッロ、フロンテラの5ブランドを、定番の赤と白で一本ずつ見ていく。