この連載の目次(全8回・完結)
- 01浅草寺の隣に、なぜ浅草神社があるのか
- 02八幡・稲荷・天神は、なぜ全国にあるのか
- 03京都の歩き方
- 04寺で何をしているのか——坐禅・念仏・密教の儀礼いまここ
- 05仏像の見方——如来・菩薩・明王・天部
- 06御朱印の読み方
- 07鎌倉と奈良を、半日ずつ歩く
- 08もう一度、浅草を歩く
寺の門をくぐると、たいてい「◯◯宗」と書いてある。真言宗、浄土宗、曹洞宗、臨済宗——数だけ見ると、日本の仏教はやたらに枝分かれしているように見える。ただ、宗派名だけでは違いが見えにくいが、境内で何をしているかを見れば、その寺の性格はある程度つかめる。
現地で目にする、三つの実践
坐禅をする
境内に坐禅会の案内が出ている寺がある。決まった姿勢で坐り、呼吸を整えて時間を過ごす。師から問いを与えられて考え続ける形もあれば、ただ坐ることそのものを重んじる形もある。
坐禅を中心に据えてきたのが、臨済宗や曹洞宗といった系統である。福井の永平寺のように、いまも多くの修行僧が坐禅を含む日課を送っている寺もある。
拝観のときに目に入るのは、坐禅堂そのものより、会の日程を知らせる掲示であることが多い。
念仏を唱える
「南無阿弥陀仏」という言葉が、掲示や授与品に大きく出ている寺がある。阿弥陀仏(あみだぶつ)という仏を頼りにする系統で、浄土宗・浄土真宗などがこれにあたる。
阿弥陀仏をどう頼りにするか、念仏をどう位置づけるかは宗派によって説き方が違う。共通しているのは、阿弥陀仏がこの信仰の中心にいることだ。
京都の西本願寺のように、非常に大きな木造の建物が二棟並ぶ寺は、この系統に多い。多くの人が同じ堂に集まって法要を行う形が、建物の規模に表れている。
密教の儀礼を行う
護摩(ごま)の日程が掲示されている寺がある。火を焚いて祈る儀礼で、これを行うのは密教の系統である。手で形をつくり(印)、決まった言葉を唱え(真言)、仏の世界を図に表した曼荼羅(まんだら)を用いる。
言葉で説明しきるのではなく、体を使った作法を通して仏に近づく、というのがこの系統の考え方だ。京都の東寺では、講堂に並ぶ多数の仏像が曼荼羅の世界を立体で表している。
なお、密教を行う系統は真言宗だけではない。天台宗は、密教のほかに坐禅・念仏・戒律なども含む総合的な仏教として自らを説明している。この三つの実践は、宗派と一対一で対応しているわけではない。
この三つに、収まらない寺
三つですべての寺が説明できるわけではない。
日蓮の系統では、「法華経」というひとつの経典を中心に置き、「南無妙法蓮華経」と唱える。掲示や授与品にこの言葉があれば、この系統である。
奈良の古い寺——東大寺や興福寺は、これらの系統が生まれるよりずっと前からある。仏教が国の事業として大きく扱われた時代に建てられた寺で、経典の研究が長く重んじられてきた。奈良の大仏で知られる東大寺も、この古い層に属している。
ほかにも、複数の実践を併せ持つ寺、時代によって所属が変わった寺、どれとも重ならない寺がある。三つの実践は、寺を仕分けるための箱ではなく、境内で何を見ればよいかの入口と考えたほうがいい。
現地で、何を見るか
宗派名だけでなく、境内で目に入るものからも、その寺が何を大切にしてきたかは想像がつく。
掲示を見る。 坐禅会の案内、護摩の日程、法要の予定。何の会が開かれているかが、いちばん分かりやすい手がかりになる。
唱える言葉を見る。 掲示や授与品に「南無阿弥陀仏」とあれば阿弥陀仏を頼りにする系統、「南無妙法蓮華経」とあれば日蓮の系統。真言が書かれていれば密教の系統である。
本尊が誰かを見る。 本堂の中央に何が祀られているかは、たいてい由緒書きか拝観案内に書いてある。
建物の構成を見る。 大きな寺では、本堂のほかに、護摩を焚く堂、坐禅をする堂、写経をする建物が別に建っていることがある。境内図を眺めるだけでも、その寺が何に力を入れているかが見えてくる。
これらは手がかりであって、決め手ではない。確実なのは、門前の由緒書きか公式の案内に書かれた宗派名を読むことだ。
建物の中に入れるかどうかは寺ごとに違う。 本堂に上がれる寺、外から拝むだけの寺、特定の期間だけ内部を公開する寺がある。行く前に公式の拝観案内を確かめておくとよい。
坐禅会や写経の会は、参加できるものもある。 予約が必要な場合、服装の指定がある場合、参加できる日が限られる場合がそれぞれある。参加してみたいなら、その寺の公式案内で条件を確かめておきたい。
宗派の名前について
坐禅を中心に据えてきた系統——臨済宗(栄西)、曹洞宗(道元)など。曹洞宗の大本山のひとつが福井の永平寺。
阿弥陀仏を頼りにする系統——浄土宗(法然)、浄土真宗(親鸞)など。浄土真宗の本山に西本願寺・東本願寺がある。
密教を行う系統——真言宗、天台宗など。真言宗には多くの派があり、高野山真言宗は「主な宗派だけ数えても18種類」と説明している。それぞれに本山があるため、「真言宗の本山はここ」と一つに決まるわけではない。天台宗は、密教のほかに坐禅・念仏・戒律なども含む総合的な仏教として自らを説明している。
日蓮の系統——日蓮宗など(日蓮)。
奈良の古い寺——東大寺(華厳宗)、興福寺(法相宗)、唐招提寺(律宗)など。