この連載の目次(全8回・完結)
京都でいちばん多い失敗は、清水寺と金閣寺を同じ半日に入れることである。どちらも有名なので両方見たくなる。ところがこの二つは、市街地の東側と北西側に離れている。半日の多くを移動に使うことになる。
地図で見ると、京都はこうなっている
まず、位置関係を一枚で見てしまう。
- にぎわい側(北から南へ、歩いてつながる)祇園・八坂神社 → 高台寺 → 八坂の塔 → 二年坂・三年坂 → 清水寺
- 静か側(北から南へ、歩いてつながる)銀閣寺 → 哲学の道 → 南禅寺。南禅寺のさらに南に、にぎわい側の道が続く
- 金閣寺市街地の北西へ離れていて、東山側とは歩いてつながらない
正確な縮尺ではなく、歩いてつながるかどうかが分かる程度の図。鴨川より東の山ぎわ=東山に、寺社が縦に並んでいる。
見てのとおり、東山には二本の道筋が縦に走っている。 どちらも徒歩でつながる。いっぽう金閣寺は市街地の北西へ離れていて、東山側とは歩いてつながらない。公共交通で大きく移動することになる。清水寺と金閣寺を同じ半日に入れると疲れるのは、この距離のためだ。
京都駅は、地図でいうと南の入口にあたる。ここから東山へは、バスか電車で北東へ向かうことになる。
にぎわいの道——清水寺から、祇園まで下る
一本目は、坂の上の清水寺から出発して、下りながら祇園まで抜ける道である。上から下へ歩くので、体はいちばん楽になる。
清水寺——崖の上に張り出した観音の寺
出発点の清水寺は、坂を上りきったところにある。この寺の本尊は観音で、古くから観音に願をかけに来る場所だった。
有名な「清水の舞台」は、景色を見るための展望台として造られたものではない。本堂の前に張り出した、舞や芸能を観音へ奉納するための場所である。崖から柱を組み上げて床を支える造りになっていて、下から見上げると、木の柱が何本も交差しているのが分かる。

三年坂・二年坂と、八坂の塔
清水寺を出て坂を下ると、石畳の三年坂・二年坂が続く。土産物屋と甘味処が並ぶ、京都らしい町並みの代表である。
その途中で、屋根の向こうに五重塔が見えてくる。これが八坂の塔だ。名前に「八坂」とつくので神社と思われがちだが、これは寺の塔である。法観寺(ほうかんじ)という寺に残った塔で、いまは塔がほぼ単独で建っている。

高台寺——妻が、夫を弔うために開いた寺
坂の途中から少し北へ入ると高台寺がある。ここは成り立ちがはっきりしている寺だ。豊臣秀吉の菩提を弔うため、その妻である北政所(きたのまんどころ/ねね)が開いた。
境内には、ねねが晩年を過ごした場所や、秀吉とねねを祀る建物が残っている。高台寺から八坂神社へ抜ける道は「ねねの道」と呼ばれ、東山を歩くときの南北の背骨になる。
八坂神社——疫病を鎮めるために始まった社
坂を下りきると、八坂神社の朱塗りの門が見える。ここは古くから疫病を鎮める神を祀ってきた社である。第1回で見た、神と仏を重ねて祀っていた時代の姿が残る社のひとつでもある(詳しくは末尾の注記に)。
毎年7月にひと月かけて行われる祇園祭は、この八坂神社の祭礼で、疫病が鎮まることを祈って始まったと伝えられている。

門を出れば祇園である。ここまで、乗り物を使わずに歩いてつながる。
静かな道——銀閣寺から、南禅寺へ
もう一本は、東山の北側にある。銀閣寺から南禅寺へ、水路沿いに南へ下る道だ。
銀閣寺——将軍の山荘が、寺になった
銀閣寺。正式名は慈照寺という。室町幕府の将軍・足利義政が東山に構えた山荘として始まった。義政の死後、その山荘が禅寺になった——もともと住むための場所だったというのが、この寺の成り立ちである。
「銀閣」と呼ばれる建物は、下の階が住宅風のつくり、上の階が仏を安置する堂という、二段構えになっている。実際に見ると、木の色がそのまま出た落ち着いた建物で、金閣寺のように金箔で覆われてはいない。

哲学の道と、南禅寺
銀閣寺から南へ、水路沿いに続く散歩道が哲学の道である。ゆっくり歩いて40分ほどで南禅寺に着く。
南禅寺で目に入るのは、まず巨大な三門——境内の入口に立つ、二階建ての大きな門である。そしてもうひとつが水路閣。これは寺の建築ではなく、明治時代に琵琶湖から京都へ水を引くために造られた水道橋である。その水路が南禅寺の境内を通っている。レンガのアーチが並ぶ姿は、周りの木造建築とまったく違う。

本文に出さなかった名前について
八坂神社に祀られている神について。 主祭神は素戔嗚尊(すさのおのみこと)で、かつては牛頭天王(ごずてんのう)とも呼ばれ、仏である薬師如来と重ねて祀られていた時期がある。明治より前は、神と仏を分けずに祀る形が各地にあった。
八坂の塔について。 塔が建つ法観寺は、拝観の受付を行っている日と行っていない日がある。外から見上げるだけでも、坂道の景色の一部として十分に効く。
由緒書きは、門を入ってすぐの場所にあることが多い。 拝観受付のそばや、本堂へ向かう参道の脇に、木の札や石碑で立っている。そこには、その寺社がいつ始まったか、誰が建てたか、何を祀っているかが書いてある。読むのは1分で済む。
拝観できる範囲と時間は、寺社ごとに違う。 建物の中に入れるところ、外から見るだけのところ、特定の期間しか公開しないところがある。行く前にその寺社の公式案内で、拝観の可否だけ確かめておくと予定が立てやすい。