この連載の目次(全8回・完結)
- 01競馬は、馬券を買わなくても面白い
- 02日本ダービーと有馬記念は、何が違うのか
- 03逃げる馬と、追いかける馬
- 04血統の話で、なぜ父の名前が出るのか
- 05一頭の馬を、何人が走らせているのか
- 06東京と中山では、レースの見え方が違ういまここ
- 07名前だけでも通じる名馬たち
- 08最終回——2023年ジャパンカップを、最初から最後まで見る
中継で見ていると、どの競馬場も同じように見える。ゲートが開き、コーナーを回り、直線で決まる。ところが、その最後の直線の長さは、競馬場によって二倍近く違う。
四つの競馬場を順に見る。数値を全部並べても頭に残らないので、それぞれについて三つだけ——上から見た形、映像で伝わる違い、そして一つだけ残る印象を書く。
東京——広い

東京競馬場2019年10月30日、上空から。芝は内回りと外回りに分かれず、一本の広いコースになっている
Photo: 国土交通省 国土地理院 / Wikimedia Commons / 出典明示で利用可(国土画像情報・カラー空中写真、国土交通省)(国土地理院 国土画像情報(カラー空中写真)をもとに作成。WebP変換と縮小のみ、トリミングなし。)
上から見ると、太い楕円が一本あるだけだ。内回りと外回りに分かれていない。コーナーの半径がゆったりしているので、映像でも馬の集団が団子にならず、一頭ずつの位置が最後まで見分けやすい。
そして直線が長い。525.9メートル——四つのなかで最も長く、中山の1.7倍近くある。差が縮まっていく時間が、そのぶん長く画面に映る。第3回で見た2022年の天皇賞(秋)——およそ馬10頭ぶん以上あった差が最後に1頭ぶんまで縮み、イクイノックスがパンサラッサを追い越したレース——は、この直線で起きている。
残る印象は、ひとことで言えば広い。JRAはこの競馬場を、日本競馬の「顔」と呼ぶにふさわしいスケールの大きな競馬場だ、と紹介している。
中山——忙しい

中山競馬場2024年1月28日。開催のない日のスタンド
Photo: モトテツ / Wikimedia Commons / CC0 1.0(WebP変換と縮小のみ、トリミングなし。)
こちらは右回りで、コーナーが近い。写真のスタンド前の直線は310メートルしかなく、東京の6割ほどである。
映像で伝わる違いは、何もかもが一度に来ることだ。コーナーを回りきったと思ったらもう直線で、その直線の途中にゴール前の急坂がある。JRAはこの坂を、馬たちにとって文字通りの「最後の難関」と書いている。だから、飛ばしてきた馬が最後の坂で止まり、順位が入れ替わる場面がよく起きる。短いコースだから前の馬が残る、とは限らない。
この坂の高低差はJRAの十場でいちばん大きい。二階建ての建物ぶんを、ゴール直前で上ることになる。
残る印象は忙しい。第2回で見た有馬記念は、この短い直線に十数頭がなだれ込む一戦である。
京都——上って、下りる

建て替えられた京都競馬場のスタンド2023年4月、リニューアルオープン直後
Photo: Nadaraikon / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0(WebP変換と縮小のみ、トリミングなし。)
現地でまず目に入るのは、写真のスタンドである。2020年の秋から約2年間レースを止めて建て替えられ、2023年4月に「センテニアル・パーク京都競馬場」として開き直した。ただしJRAは、この工事でコースの形は大きく変えていない、と書いている。作り直したのは人が入る側だった。
映像で伝わるのは、その変わらなかったコースのほうだ。向正面の途中から3コーナーにかけて坂を上り、4コーナーへ一気に下りる。勾配があるのはそこだけで、あとはほぼ平坦。JRAはこれを「3コーナーに小高い丘が設けられている競馬場」と説明している。画面のなかで馬の背が一度沈み、また浮かび上がる。
残る印象は上って、下りる。下り坂で勢いをつけて平坦な直線へ向かう走り方が定着していて、坂の頂上あたりから全体の速度が上がるレースが多い。
阪神——同じ競馬場に、直線が二本

阪神競馬場2012年9月26日、上空から。右側で芝コースが内と外の二本に分かれている
Photo: 国土交通省 国土地理院 / Wikimedia Commons / 出典明示で利用可(国土画像情報・カラー空中写真、国土交通省)(国土地理院 国土画像情報(カラー空中写真)をもとに作成。WebP変換と縮小のみ、トリミングなし。)
写真の右側を見ると、芝のコースが二本に分かれてふくらんでいる。内回りと外回りである。昭和のあいだは一本しかなく、平成に入ってから外側に一本を新設した。その外回りは一周が右回りの競馬場で日本最長で、東京よりも長い。
映像で伝わる違いは、同じ競馬場なのにレースの景色が変わることだ。外回りを使う日は、バックストレッチが長く、コーナーも大きく、直線も伸びる。内回りを使う日は、それが全部縮む。JRAが挙げている比べ方が分かりやすい——内回りの芝1,200メートルと外回りの芝1,600メートルは、発走地点が同じなのだ。同じ場所から出て、400メートル分だけ外を大回りする。
残る印象は二本ある。同じ名前の競馬場で、走る道が二通り用意されている。