この連載の目次(全8回・完結)
- 01競馬は、馬券を買わなくても面白いいまここ
- 02日本ダービーと有馬記念は、何が違うのか
- 03逃げる馬と、追いかける馬
- 04血統の話で、なぜ父の名前が出るのか
- 05一頭の馬を、何人が走らせているのか
- 06東京と中山では、レースの見え方が違う
- 07名前だけでも通じる名馬たち
- 08最終回——2023年ジャパンカップを、最初から最後まで見る
馬名も馬券も分からないまま中継を見ると、十数頭が一斉に走り、勝った馬だけが残って終わる。
ゲートが開いてからゴールまでは、二分ほどしかない。そのあいだに何が起きているのかを、実際にあった二つのレースで見る。どちらも、勝ったのは最後の数秒で前に出た馬だった。

発走2017年ジャパンカップの発走。ゲートが開き、各馬が一斉に走り出す
Photo: nakashi / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0(WebP変換と縮小のみ、トリミングなし。)
先頭と後ろが、同じ画面に入らなかった
2022年10月30日、東京競馬場の天皇賞(秋)。芝2,000メートル、15頭立て。
ゲートが開いてすぐ、パンサラッサという馬が先頭に立った。ここまではよくあることだが、この日は差の開き方が違った。競馬では馬の体の長さを目安に差を数え、これを「馬身」という。JRAの記録によれば、パンサラッサは10馬身——およそ馬10頭ぶんほど後ろを引き離したまま、最後の直線に入っている。

残り300メートルの隊列2022年10月30日、東京競馬場の天皇賞(秋)。右がパンサラッサ、左が追う集団
Photo: Chabata k / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(WebP変換と縮小のみ、トリミングなし。)
写真のとおり、先頭の一頭と後ろの集団のあいだには、芝の緑がはっきり広がっている。中継のカメラは両方を入れようとして引き、馬が小さくなる。
そして直線で、後ろの集団からイクイノックスが伸びてきた。15頭のうち10番目を走っていた馬である。
ゴール直前でイクイノックスがパンサラッサを追い越し、1着。パンサラッサは2着で、差は1馬身——およそ馬一頭分だった。写真のあの差が、残り300メートルで消えた。
二頭の走り方は、まるで違っていた。パンサラッサは最初から飛ばしたぶん、終盤に速度が落ちる。イクイノックスは前半を抑えて、最後だけを速く走る。最後の600メートルにかかった時間は、パンサラッサが36秒8、イクイノックスが32秒7。同じレースの同じ区間で、4秒以上ひらいている。
勝った側から見ても、余裕のあるレースではなかった。レースで馬に乗る人を騎手という。イクイノックスに乗っていた騎手のC.ルメールは、パンサラッサがかなり前にいて心配になった、と話している。
日本ダービー——3歳馬が一度だけ挑む大舞台
日本ダービーは、正式名を東京優駿という。3歳馬が東京競馬場の芝2,400メートルで争うレースで、JRAが最も重要な格に位置づけるGⅠ(ジーワン)の一つである。競走馬が3歳の年にしか出られないため、挑戦できる機会は一度だけだ。
2022年は、ドウデュースがイクイノックスをわずかに上回って1着になった。公式記録の着差は「クビ」。およそ馬の首ほどの差である。2,400メートルを走った二頭の差は、最後にはそれだけだった。

クビ差で決まった一戦2022年5月29日、東京競馬場の日本ダービー。手前がドウデュース、その内側がイクイノックス
Photo: 江戸村のとくぞう / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(WebP変換と縮小のみ、トリミングなし。)
2024年は、事前の人気で9番目だった馬が勝った。この年の日本ダービーを現地で見た英国の競馬記者は、直線での歓声の大きさと、期待されていなかった勝ち馬を観客が迎えた熱気に驚いたと書いている。競馬場の空気は、レースの中身とは別の見どころになる。
次の一歩
二つのレースで起きていたことは違う。前に行った馬が押し切れるかどうか、わずかな差で勝ち負けが入れ替わるかどうか。どちらも、勝った馬の名前だけでは残らない部分にある。
そして、こういうこともある。2020年のジャパンカップには、その年までに大きなレースを三つ勝った馬が三頭そろって出走し、事前の人気どおり1着・2着・3着で入った。事前の期待どおりに決まるほうが、めずらしい。
次は、有名なレースがそれぞれ何を決める一戦なのかを見る。
なお、勝馬投票券(馬券)が買えるのは20歳以上である。