この連載の目次(全7回・完結)
- 01腕時計は、時間を見るためだけの道具ではない
- 02有名ブランドは、どんな人が着けるのか
- 03ロレックスもセイコーも、一つの顔ではない
- 04四角い時計、ダイバーズ、クロノグラフ
- 05正確さ、手間、機械を持つ楽しさ
- 06高い時計は、正確だから高いわけではない
- 07最初の一本は、仕様表ではなく「どう見られたいか」から選ぶいまここ
ここまで、ブランド、モデル、形、動力、値段を見てきた。最後に残るのは、それらを並べる順番のほうだ。仕様から入ると決まらない。自分の側を先に決めると、候補はかなり減る。
決めるのは、時計ではなく自分の側
「どの時計を買うか」を先に考えると、いつまでも終わらない。候補が多すぎるからだ。
順序を逆にする。自分がどう見られたいかを一つ決めて、そこから絞る。
以下に六つの入口を挙げる。全部に当てはまることはないし、当てはまる必要もない。一つ選べれば、それで足りる。
なお、ここで挙げるブランドはあくまで候補の例で、公式な区分ではない。一つの入口に対して答えが一つに決まるわけではないし、同じブランドが複数の入口に出てくることもある。
① 気兼ねなく使いたい
傷が付いても気にしない。濡らしても平気。手入れのことを考えたくない。
G-SHOCK — 落として壊れない時計を作る、という一点から始まったブランド。樹脂の型も金属の型もある。
シチズン — 光で充電する系統なら、電池交換に出す回数を減らせる。チタンの外装は軽く、仕事着にも合わせられる。
セイコー — 手頃な価格帯に、丈夫な型がそろっている。潜水を想定した系統は水にも強い。

手のかからない実用機の例
Photo: Wikimedia Commons — Citizen Eco-Drive Titanium Sapphire.jpg / CC BY-SA 3.0(撮影は Tuxyso、深度合成は Hic et nunc。)
② 清潔で、上品に見せたい
仕事でジャケットを着る。袖口から出たときに、きちんとして見えてほしい。
カルティエ — 四角い枠と小さな文字盤。厚みが抑えられていて、袖の下へ入る。機械の話を通らずに選べる。
セイコー — 文字盤の仕上げに手をかけた系統がある。値段を抑えたい場合の候補になる。
グランドセイコー — 装飾を抑えた三針の型なら、仕事着にも合わせやすい。⑥にも出てくる。
形でいえば、丸い三針か、薄い四角。厚みのある型は袖に当たりやすい。
③ 分かりやすい高級感がほしい
腕元に、はっきりした高級感を出したい。
ロレックス — 時計に関心のない人にも名前が通る。時計に詳しくなくても選べる。
オメガ — 広く知られた高級時計ブランドで、ロレックスとは違う候補を探す人にも選ばれる。
カルティエ — 高級感の質が違う。時計としてより、装いの一部として読まれやすい。
同じブランドの中でも幅がある。装飾の少ない三針と、円が並ぶクロノグラフでは、腕元の見え方がかなり違う。ブランドを決めた後に、もう一段階選ぶことになる。

競技場に置かれた時計
Photo: Wikimedia Commons — Rolex clock at the All England Club.jpg / CC BY 4.0(腕時計ではなく、競技場に置かれた時計。)
④ 時計そのものを楽しみたい
中の仕組みや、そのブランドが通ってきた経緯に関心がある。
オメガ — 宇宙、競技、映画。背景を持つ系統がそろっている。
セイコー — 機械式の入口が低い価格帯にある。裏蓋が透明な型も選べる。
チューダー — 潜水用時計の歴史を持ち、現在はブラックベイを中心に独立したスポーツ時計ブランドとして見られている。⑥にも出てくる。
IWC — 飛行機と船の計器から来た系統。読みやすさで組み立てられた文字盤が特徴になる。
この入口では機械式が候補の中心になり、止まる、巻く、整備するという手間が付いてくる。その手間ごと面白がれるかどうかで、向き不向きが分かれる。
⑤ スポーティーにしたい
固くなりすぎたくない。腕元に動きを出したい。
タグ・ホイヤー — レースの計測から来たブランド。文字盤に小さな円が並ぶ型が中心にある。
オメガ — 潜水用の系統なら、腕元に厚みと存在感が出る。
セイコー — 潜水用の系統は価格帯が広く、入口が下にある。
G-SHOCK — 樹脂の型なら、いちばん砕けた方向へ振れる。
形でいえば、ダイバーズかクロノグラフ。どちらも腕元の情報量が増える。厚みや文字盤の密度は型によって幅があるので、実物で確かめることになる。
⑥ 分かりやすいブランド名を、前に出したくない
誰にでも分かるブランド名より、自分が納得できる作りや背景を選びたい。
グランドセイコー — 装飾がなく、腕に載せても値段が伝わりにくい。近くで見て分かる作りに手をかけている。
IWC — ケースは大きめだが、文字盤に余計なものが載っていない。仕事着になじむ。
チューダー — ブランド名を前に出さないという意味で、この入口に入る。ただし潜水用の型が主力なので、見た目には厚みがある。
シチズン — 上位の系統なら、静かな見た目のまま作りに手をかけたものがある。
共通しているのは、価格やブランド名が一目で伝わることを目的にしていない点である。選んでいるものは、近くで分かる仕上げ、落ち着いた機械式、道具としての背景、実用技術と、それぞれ違う。

大きいのに端正な形
Photo: Wikimedia Commons — IWC Portuguese Automatic.JPG / CC BY-SA 3.0(2009年の撮影で、現行世代ではない。細い数字と大きな文字盤という構成は、いまも共通している。)
そこから先は、実物を見る
六つを並べたが、全部を検討する必要はない。一つ選べば、候補はかなり減る。
ただし、絞ったあとで実物を見ないと決まらない。腕に載せてみないと分からないことがある。大きさ、重さ、袖に入るかどうか、文字盤の見やすさ。写真ではどれも伝わりにくい。
最後に一つ。選んだ入口は、変わっていい。何本か持つうちに、求めるものが変わることもある。どの入口から入っても、間違いにはならない。