この連載の目次(全7回・完結)
- 01腕時計は、時間を見るためだけの道具ではない
- 02有名ブランドは、どんな人が着けるのか
- 03ロレックスもセイコーも、一つの顔ではない
- 04四角い時計、ダイバーズ、クロノグラフいまここ
- 05正確さ、手間、機械を持つ楽しさ
- 06高い時計は、正確だから高いわけではない
- 07最初の一本は、仕様表ではなく「どう見られたいか」から選ぶ
ブランドを決めても、まだ選び終わらない。同じブランドの中に丸いものと四角いものがあり、薄いものと厚いものがある。そして形が変われば、同じ服を着ていても腕元の印象が変わる。
丸い三針——足していない形
丸いケースに、時針と分針と秒針。文字盤に載っているのはそれだけである。
腕元は静かに見える。文字盤の中に読み取るものが少ない。スーツにも私服にも合わせやすく、服の側が主役のままでいられる。
同じ丸い三針でも、文字盤の色と針の細さで印象は動く。白い文字盤に細い針なら軽く、黒い文字盤に太い針なら重く見える。足すものがないぶん、わずかな差がそのまま出る形でもある。

装飾のない三針の例
Photo: Wikimedia Commons — Tudor Heritage Ranger watch.jpg / CC BY 2.0(2014年から2019年まで作られた型。丸い三針の構成そのものは、いまも変わらない。)
四角・長方形——装いの側に寄る
丸くない、というだけで腕元の印象が変わる。
四角い時計は、道具というより装いの一部として見える。厚みを抑えた型が多く、袖口に収まったときに落ち着く。
ジャケットやシャツにも取り入れられている。薄いぶん袖の下へ入りやすく、腕元が引っかからない。カジュアルな服に合わせる場合は、金属のブレスレットを持つ型や、外装にビスが見える型のほうが馴染む。

角形の一例
Photo: Wikimedia Commons — Cartier Santos wristwatch.jpg / CC BY-SA 4.0(同じ角形でも、露出したビスがあるとより道具寄りに見える。)
ダイバーズ——厚みが、そのまま印象になる
外周に、目盛りの刻まれた回転する縁が付いている。潜水中に経過時間を測るための構造だ。
腕元には厚みと存在感が出る。縁があるぶん文字盤の外側に線が増え、正面から見たときの情報量が丸い三針より多くなる。縁の色も効き、黒一色なら落ち着き、赤や青が入ると明るくなる。
合わせられているのは私服が中心で、デニムやシャツ、ジャケットに載る。厚みがあるので、ワイシャツの袖口には当たることがある。同じダイバーズでも厚みには幅があるので、袖を通す機会が多いなら、そこを見て選ぶことになる。

潜水用の形
Photo: Wikimedia Commons — Omega Seamaster Planet Ocean.jpg / CC BY-SA 4.0(外周の縁が回る構造を持つぶん、ケースは厚くなる。着用者の顔は写っていない。)
クロノグラフ——文字盤の情報量が増える
文字盤の中に小さな円がいくつか並び、ケースの横にボタンが付いている。ストップウォッチの機能を持つ形だ。
腕元は賑やかになる。円と線と数字が重なり、外周にも目盛りが走る型が多い。丸い三針と並べると、同じ大きさでも密度がまるで違って見える。
合わせられているのは、私服から、きちんとしすぎない仕事着まで。腕元に見どころができるので、服を静かにまとめたいときは、装飾の少ない型を選ぶことになる。文字盤の色を揃えた型なら、円が並んでいても落ち着いて見える。

クロノグラフの形
Photo: Wikimedia Commons — Tag CV2010 Carrera.JPG / CC BY-SA 3.0(小さな円とボタンが加わることで、腕の上の情報量が増える。着用者の顔は写っていない。)
針を持たない二つ——デジタルとスマートウォッチ
残りの二つには、共通点がある。どちらも針を持たず、数字がそのまま出ている。
デジタルは、液晶に時刻が表示される形だ。四角い樹脂のものが定番になっている。腕元は軽く、砕けて見える。合わせられているのは普段着と作業着が中心で、デニムやパーカーに載る。
スマートウォッチは、角の丸い長方形を採る製品が多い。腕元の印象は、時計というより小さな機器に近い。バンドを替えれば色は変えられる。仕事着に合わせる人もいれば、休日だけにする人もいる。
服はそのままで、形だけ入れ替える
白いシャツに紺のジャケット、という同じ服装を想像してほしい。
薄い四角を載せると、袖口に線が揃って、服の一部のように収まる。厚いダイバーズなら、袖口から出っ張って、腕元のほうが目に入る。クロノグラフなら、円と数字が詰まって、文字盤の密度が上がる。
服は一つも変えていない。それでも見え方が変わる。だから、ブランドを決めた後にもう一段階、形を選ぶことになる。逆に、形から入る人もいる。
次回
第5回では、時計の中で何が動いているのかを扱う。ただし仕組みの細部ではなく、自分の生活と噛み合うかどうかだけを見る。