大人男子の趣味教養OTONA DANSHI NO SHUMI-KYOYO

WATCH連載「時計の教養」第6回

高い時計は、正確だから高いわけではない——値段の中身を、四つに分けて見る

数千円のクォーツのほうが正確なのに、値段には大きな差がある。ブランドと信頼、素材と仕上げ、機能と生産数、そして長く使う体制。四つに分けて見る。

公開 2026.09.02最終確認 2026.09.02
この連載の目次(全7・完結
  1. 01腕時計は、時間を見るためだけの道具ではない
  2. 02有名ブランドは、どんな人が着けるのか
  3. 03ロレックスもセイコーも、一つの顔ではない
  4. 04四角い時計、ダイバーズ、クロノグラフ
  5. 05正確さ、手間、機械を持つ楽しさ
  6. 06高い時計は、正確だから高いわけではないいまここ
  7. 07最初の一本は、仕様表ではなく「どう見られたいか」から選ぶ

数千円のクォーツは、日常で合わせ直す必要がない。数百万円の機械式は、少しずつずれる。精度だけを見れば、安いほうが正確である。それでも値段には大きな差がある。その差が何でできているのかを、四つに分けて見る。

BRAND

① ブランドの名前と、信頼

一つめは、ブランドが積み上げてきた信頼である。

長く作り続けていること。壊れにくいと知られていること。何十年も前の製品がいまも動いていること。こうした実績は一朝一夕には作れず、そのぶん値段に乗る。

名前の知られ方も、ここに含まれる。時計に関心のない人にも通る名前と、時計を知っている人にだけ通る名前がある。どちらが上ということではない。通じる相手の範囲が違う、というだけだ。

CRAFT

② 素材と仕上げ、製造にかかる手間

二つめは、作りにかかる手間である。

ケースや文字盤の面を平らに磨く。針の断面を削って角を立てる。金属の種類を変える。どれも時間と工程が増える方向の作業で、そのまま値段に反映される。

この差は、離れて見ても分かりにくい。腕から外して近くで見たとき、光の当たり方で気づく程度である。だから値段の説明としては使いにくく、店頭で実物を傾けて初めて見えてくる。

白い机の上に置かれた腕時計を真横から撮影したもの。ケースの薄さ、風防の立ち上がり、竜頭、ラグの曲がりが見える

真横から見たケースグランドセイコー2010年代個人蔵

Photo: Wikimedia Commons — Grand Seiko SBGW231 sideview.JPG / CC BY-SA 4.0正面からの写真では分からない面が、真横にすると見える。

COMPLICATION

③ 複雑な機能と、少ない生産数

三つめは、時計そのものが持つ機能と、作られる本数である。

時刻を知らせる以外のことをする仕掛けがある。曜日と日付と月の表示、月の満ち欠け、経過時間を測る機構。部品が増えるほど、組み立ても調整も難しくなる。

作られる本数が少ない型も、値段が上がりやすい。手のかかる工程を含む型は、そもそも大量に作れない。

透明な裏蓋から見える自動巻きの機構。金色の錘、地板の縞模様の仕上げ、受けのねじと石が並ぶ

裏から見た機構グランドセイコー2010年代個人蔵

Photo: Wikimedia Commons — Grand Seiko Caliber 9S65 Automatic.JPG / CC BY-SA 4.0外から見えない側にも仕上げが施されている。整備のたびに、ここが開けられる。

SERVICE

④ 長く使うための体制

四つめは、買った後のことである。

機械式の時計は、定期的に分解して整備することを前提に作られている。そのためには、部品が供給され、直せる人がいて、受け付ける窓口が続いている必要がある。

この体制を維持するには費用がかかり、それも値段に含まれている。高い時計は、買った時点で支払いが終わらない。持ち続けるあいだ、整備の費用が発生する。ここを面倒と感じるなら、方式ごと選び直したほうがいい。

MIX

四つの配分は、ブランドによって違う

ここまで四つを挙げたが、どれが値段の中でいちばん大きいかは決まっていない。ブランドによって配分が違う。

名前の知られ方に重心があるブランドもあれば、仕上げに重心があるブランドもある。複雑な機能で値段が決まる型もあれば、作られる本数の少なさで決まる型もある。

だから「高い時計」を一つの塊として考えても、選び方は出てこない。自分が何に払うのかを決めるほうが早い。近くで見たときの作りなのか、名前の通りやすさなのか、機能なのか、長く直せることなのか。

WHY

高い時計を買う理由は、いくつかに分かれる

高い時計を選ぶ理由も、いくつかの型に分かれる。

分かりやすい高級感がほしい。名前が広く通っているブランドを選ぶ。知名度や長く続く信頼を手がかりに選ぶこともできる。

時計作りや歴史を楽しみたい。中の仕組みや、そのブランドが通ってきた経緯に関心がある。裏蓋が透明な型を選ぶ人もいる。

長く使える一本がほしい。買い替えを前提にせず、整備しながら持ち続ける。ここでは④の体制が効いてくる。

記念として買う。就職、結婚、独立。あるいは受け継ぐ。時計そのものより、いつ手に入れたかのほうが大きい。

このどれかが決まっていれば、値段の中身のどこを見ればいいかも決まる。次回は、そこから最初の一本を選ぶ。

次回

第7回は最終回。仕様表ではなく「どう見られたいか」から、候補を絞る。