大人男子の趣味教養OTONA DANSHI NO SHUMI-KYOYO

WATCH連載「時計の教養」第1回

腕時計は、時間を見るためだけの道具ではない——何を選ぶ人なのかが、腕に出る

スマートフォンがあれば時刻は分かる。それでも腕時計を着ける人がいるのはなぜか。実用品、仕事の道具、装飾品、趣味の品、記念の品——人によって違う役割から入る。

公開 2026.09.02最終確認 2026.09.02
この連載の目次(全7・完結
  1. 01腕時計は、時間を見るためだけの道具ではないいまここ
  2. 02有名ブランドは、どんな人が着けるのか
  3. 03ロレックスもセイコーも、一つの顔ではない
  4. 04四角い時計、ダイバーズ、クロノグラフ
  5. 05正確さ、手間、機械を持つ楽しさ
  6. 06高い時計は、正確だから高いわけではない
  7. 07最初の一本は、仕様表ではなく「どう見られたいか」から選ぶ

時刻はポケットの中で分かる。それでも腕に何かを着けている人がいて、着けていない人がいる。この連載は、その差が何なのかを扱う。時計の中身の話は、ずっと後まで出てこない。

WHY

時刻のためなら、着けなくていい

腕時計が何のためにあるのか。答えは簡単なはずだった。時刻を知るためである。

ところが、それだけでは説明がつかなくなっている。スマートフォンを持っていれば時刻は分かる。しかも自動で合っていて、ずれない。時刻を知るという用だけなら、腕時計は要らない。

それでも腕に着けている人がいる。要らないはずのものを、わざわざ着けている。この連載が扱うのは、そこから先の話だ。

ROLES

同じ腕時計が、人によって別の物になっている

腕時計は、持っている人によって役割がまるで違う。

実用品。時刻が見られればいい。安くて、壊れなくて、手がかからないものを選ぶ。

仕事の道具。現場で使う。落とす、濡らす、ぶつける。傷が付くのは前提である。

装飾品。服と釣り合うかどうかで選ぶ。カルティエのように、機械の話を通らずに選べる時計もある。

趣味の品。中の仕組みを面白がる人が選ぶ。何本も持っていて、その日の気分で替える。

記念の品。就職のときに贈られた。結婚のときに買った。父から受け継いだ。時計そのものより、いつ手に入れたかのほうが大きい。

同じ「腕時計」という言葉で呼ばれているが、この五つはほとんど別の物である。自分がどれに近いかで、見るべき棚が変わる。

店の売り場で、木のブロックに載せられた二本の腕時計。後ろに商品の箱と値札が並ぶ

売り場の腕時計2019年撮影新宿

Photo: Wikimedia Commons — Polshorloges te koop in de BEAMS winkel te Shinjuku.jpg / CC BY-SA 2.0写っているのはセレクトショップのオリジナル。この連載で扱う12ブランドの製品ではない。

LIFE

どんな生活で使うかで、残る候補が変わる

役割が決まると、生活の側から候補が絞れる。

外で体を動かす仕事をしていて、道具を扱う。この場合、傷や水を気にしなくていいものが要る。樹脂のケースを持つ時計や、金属でも丈夫に作られた時計が候補になる。

毎日ジャケットを着る。この場合は、袖の下に収まる薄さが効いてくる。厚みのある時計はシャツの袖口に当たる。

時計に手間をかけたくない。この場合は、電池交換や時刻合わせの回数が少ないものを選ぶことになる。

逆に、手間そのものを楽しみたい人もいる。止まったら巻く、定期的に整備へ出す。そういう付き合い方を面白いと感じるなら、機械式が候補に入ってくる。

店頭の陳列棚に置かれた大型のアナログとデジタルを併せ持つ腕時計。針と二つの液晶窓、赤い差し色がある

実用品としての腕時計カシオ2010年発表・2023年撮影店頭展示

Photo: Wikimedia Commons — Casio G-Shock GA-100.jpg / CC BY-SA 4.0傷や水を気にせず使う場面を想定した型。店頭で撮影されたもの。

IMPRESSION

どんな印象にしたいかで、さらに絞れる

もう一つ、決めておくと早いことがある。腕元をどう見せたいかである。

はっきりした高級感がほしいのか。落ち着いて見せたいのか。スポーティーにしたいのか。それとも、時計に目を向けさせたくないのか。

この方向が決まると、ブランドも形も絞れる。同じ値段でも、腕元が賑やかになる時計と、静かになる時計がある。文字盤に小さな円がいくつも並ぶ時計と、針が三本あるだけの時計とでは、腕の上の印象がまるで違う。

役割と、生活と、見せたい印象。この三つが決まっていれば、店で迷う時間はかなり短くなる。

NOT WEARING

着けないことも、選択のうち

腕に何も着けていない人がいる。これも一つの答えである。

邪魔になる。必要がない。仕事で機械や道具を扱うから外している。理由はさまざまで、そのどれも普通のことだ。

Apple Watch を選ぶことも、同じように一つの答えになる。ただしこれは「安い時計にした」のとは違う。そもそも別の道具である。時刻を知らせることが主目的ではなく、通知や記録を腕へ集めるために作られている。

ORDER

仕様表を見るのは、その後でいい

時計を選ぼうとして調べ始めると、いきなり数字が出てくる。ケースの直径、防水の等級、機械の種類、部品の名前。

その順序では、たいてい決まらない。数字を比べても、自分がどれを気に入るかは出てこないからだ。

先に決めるのは、前の節までに挙げた三つ——役割、生活、見せたい印象——である。そこが決まってから仕様表を見ると、数字が意味を持ちはじめる。ケースの直径は袖に入るかどうかの話になり、防水の等級は自分の使い方に足りるかどうかの話になる。

この連載は、その順序で進む。次回はまず、名前は知っているブランドを、着けている人の側から並べ直す。

次回

第2回では、G-SHOCK、セイコー、ロレックス、オメガ、カルティエ、Apple Watch など9つのブランドを、どんな人が着けているかで並べる。