この連載の目次(全8回・完結)
- 01映画の話で固まらないために、まず4つの名前だけいまここ
- 02映画は、感想をうまく言えなくても楽しめる無料会員
- 03A24とは何なのか読み放題
- 04映画の「格」はどこで決まるのか読み放題
- 05劇場の歩き方読み放題
- 06配信の歩き方読み放題
- 07賞レースの実践読み放題
- 08最終回——映画の話に入る読み放題
「映画とか見ます?」「いや、あんまり……」「最近見た面白い映画は?」「最近、映画見てなくて……」。ここで会話が終わったことはないだろうか。映画が嫌いなわけではない。ただ、最近の作品名をすぐ答えられない。うまい感想も言えない。知らない監督名が出ると、もう聞くだけになる。必要なのは映画史ではない。まず、よく聞く名前が、人なのか、作品群なのか、会社なのかを知ることだ。
- 相手:映画とか見ます?
- 自分:いや、あんまり……
- 相手:最近見た面白い映画は?
- 自分:最近、映画見てなくて……
この四往復で足りなかったのは、作品数ではない。「最近は見ていないけれど、昔よく見たのはジブリです」「ノーランって、映画館で見る人が多い監督ですよね」のように、話を置く小さな足場だ。
最近の一本を答えられないから、止まるわけではない
相手が「映画とか見ます?」と聞くとき、映画の試験を始めたいわけではない。たいていは、休日の過ごし方や、好きなものの話へ進む入口を探している。
だから、「最近は見ていない」で終わらせなくてよい。
見ていない事実のあとに、知っている入口を一つ足す。
- 「最近は見ていないけれど、ジブリは昔よく見ました」
- 「詳しくないですが、ノーランは名前をよく聞きます」
- 「マーベル、作品がつながっているシリーズですよね」
- 「A24って作品名ではなく会社なんですよね」
正確な説明を全部言えなくてもよい。相手が話せる足場を一つ置けば、会話は続く。
人・監督
宮崎駿
知っている作品を、大人の目で見直す入口
『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』
大人になって見方が変わった作品、あります?
人・監督
クリストファー・ノーラン
大きな画面と音、時間の仕掛けを楽しむ入口
『インターステラー』『ダークナイト』
映画館で見るなら、最初の一本はどれがいいですか?
作品群の大きな看板
マーベル
ヒーローと物語が、別の作品にもつながる入口
『アイアンマン』『アベンジャーズ』
どのヒーローから見始めたんですか?
会社・レーベル
A24
少し変わった一本や、作り手の個性を探す入口
『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
最初の一本なら、何を勧めます?
全部を覚える必要はない。人なのか、作品群なのか、会社なのか。この違いだけ分かれば、知らない名前が出ても話から降りずに済む。
宮崎駿とノーランは人、マーベルは作品群、A24は会社
映画の会話が難しく見える理由の一つは、違う種類の名前が同じ調子で出てくることだ。
宮崎駿とクリストファー・ノーランは、人の名前である。一人の監督が複数の作品を撮っている。「この人の別の作品も見たい」という楽しみ方につながる。
マーベルは、一人の監督でも一本の映画でもない。複数のヒーローと物語をまとめる大きな看板だ。ある作品の人物が別の作品にも現れ、長く追う楽しさがある。
A24は、映画を作ったり届けたりする会社・レーベルの名前だ。同じ物語が続くわけではないが、「少し変わった一本を見たい」ときの目印として名前が使われる。
ここでは、会社の仕事やシリーズの順番まで覚えなくてよい。
宮崎駿・ノーラン = 人から選ぶ
マーベル = つながる作品群から選ぶ
A24 = 会社の名前を目印に選ぶ
この違いが分かるだけで、「それは監督ですか?」「作品が続いているんですか?」「会社の名前で選ぶんですか?」と聞ける。
4つから一つ、自分に近い入口を選ぶ
全部を追う必要はない。今の気分に近いものを一つだけ選ぶ。
-
昔見た映画を、いまの自分で見直したい
宮崎駿。子どものころは怖かった場面や、気に留めなかった大人の人物が、いま見ると違って見える。 -
映画館らしい大きさと音を味わいたい
クリストファー・ノーラン。まずは物語を全部理解しようとせず、「画面と音で押された場面」を一つ持ち帰る。 -
長く続く世界や人物を追いたい
マーベル。全部を順番に見る前に、気になったヒーローの一本から入る。 -
少し変わった一本を試したい
A24。会社名だけで作風を決めつけず、詳しい人に最初の一本を聞く。
選んだ入口が合わなくても失敗ではない。別の扉へ移ればよい。
映画は、一本丸ごと分からなくても楽しめる
初心者が疲れるのは、映画を見終えた瞬間に「結局、何が言いたい映画だったのか」と考え始めるからだ。
最初は、映画全体を説明しなくてよい。次のどれか一つを持ち帰る。
- 顔 — 表情が変わった瞬間
- 場所 — 部屋、道、街、宇宙など、残った空間
- 音 — 音楽、足音、機械音、無音
- 言葉 — 一行だけ残った台詞
- 変化 — 最初と最後で変わった人や関係
テーマ、採点、考察は後でよい。自分が止まった場所を一つ言葉にできれば、その映画はもう自分の体験になっている。
「面白かった」「つまらなかった」の二択にしない。「あの部屋が妙に残った」「音が止まったところで緊張した」「最初と最後で顔が違って見えた」。これで十分、映画を楽しんでいる。
会話では、知ったことを一つ添えて、一問だけ聞く
- 相手:ノーランの映画が好きなんですよ
- 自分:ノーランか。大きい画面で見る話をよく聞きます。最初に好きになった一本はどれですか?
- 相手:『インターステラー』ですね
- 自分:宇宙の仕組みより、離れた家族の時間が残る映画だと聞きました。そこから入ってみます
相手の答えを受け、記事で知ったことを一つ添え、一問だけ聞く。作品を見ていなくても、知らないことを隠さずに会話へ入れる。
別の名前でも同じだ。
- 「ジブリか。大人になって見方が変わった作品、あります?」
- 「マーベル、作品がつながっているんですよね。どのヒーローから見始めたんですか?」
- 「A24、作品名ではなく会社の名前なんですよね。最初の一本なら何を勧めます?」
質問を連打しない。返ってきた答えの中から「場面」「人物」「見た場所」のどれかを拾い、短く受けてから次の一問へ進む。
次の一歩
映画の入口で必要なのは、最新作の一覧ではない。聞いた名前が何を指すのかを知り、自分に近い扉を一つ選ぶことだ。
宮崎駿か、ノーランか、マーベルか、A24か。今週は一つだけ選ぶ。昔見た作品を見直してもよい。詳しい人に最初の一本を聞くだけでもよい。
次の連載第2回では、5人の監督から一人だけ選び、一本を見て、一場面だけ持ち帰る方法へ進む。
今週は、宮崎駿、ノーラン、マーベル、A24のうち一つだけ選ぶ。一本見る必要はない。詳しい人に「最初の一本なら何がいいですか?」と聞くだけでも完了とする。