この連載の目次(全6回・完結)
- 01『急に具合が悪くなる』『箱の中の羊』『黒牢城』ほか——名前だけでは分からない新作映画6本
- 02Netflixで話題の映画5本——あらすじと、面白いポイント
- 03宮崎駿、黒澤明、北野武、是枝裕和、濱口竜介、新海誠、山崎貴——それぞれの映画は、何が違う?
- 04スピルバーグ、キャメロン、タランティーノ、スコセッシ、ノーラン、ヴィルヌーヴ——作風はどう違う?
- 05IMAXとは何か——通常上映、IMAX、Dolby Cinemaは何が違う?いまここ
- 06アカデミー賞と三大映画祭——何が違い、誰が選んでいる?
同じ映画のチケットなのに、片方は2,000円で、片方は2,800円。何にお金を払っているのかが分からないまま、なんとなく高い方を避けている人は多い。IMAXとDolby Cinemaが通常上映と何が違うのか、画角・明るさ・音の順に、実在の作品と劇場で説明する。
| 方式 | 上映できる画角 | 映写 | 音響 | 確認すること |
|---|---|---|---|---|
| 通常上映 | シネスコ等の標準 | 劇場による | 劇場による | —(基準) |
| IMAX | 1.90:1/設備により1.43:1 | IMAX専用映写 | IMAX専用音響 | 作品の上映版×劇場の対応画角 |
| Dolby Cinema | 標準 | Dolby Vision(デュアルレーザー) | Dolby Atmos | 導入劇場かどうか |
追加料金は劇場ごとに異なる。例はグランドシネマサンシャイン池袋のIMAX=通常料金+800円。
IMAXは「大きいスクリーン」の総称ではない
まず出自から。IMAXはカナダで生まれた大型映像の会社と方式の名前で、一般公開の初披露は1970年の大阪万博だった。富士グループのパビリオンで上映された「タイガー・チャイルド」が世界初のIMAX作品である。つまりこの方式、実は日本と56年の付き合いがある。
そのうえで、画面の話をする。IMAXでは、大きさだけでなく、画面の形(画角)が通常上映と違うことがある。
ふつうの映画は、横長の画面で上映される。シネスコと呼ばれる横縦比2.39対1が典型で、横に広いぶん、上下は切り詰められている。IMAXにはこれと別に2つの画角がある。1.90対1と1.43対1だ。数字が小さいほど正方形に近い——つまり、画面が縦に伸びる。
1.43対1はシネスコの上下を大きく超える。その画角で作られた上映版を、対応する劇場で観る場合は、シネスコ版より上下に広い範囲が映る。
上の図は横幅を揃えて重ねたものだ。1.90対1では、シネスコより上下がひとまわり開く。1.43対1まで開いた場合、IMAXの資料では標準的な上映に対して最大67%多くの映像が映るとされている。「IMAXで観ると映像が上下に広い」という体験の正体は、この画角の差である。
実際にどの画角で見えるかは、作品側の上映版と、劇場側の設備の組み合わせで決まる。1.43対1の上映に対応した劇場は世界でも一部で、日本ではグランドシネマサンシャイン池袋(東京)のIMAXレーザー/GTなど数えるほどしかない。同じ「IMAX」の看板でも、多くのデジタルIMAX劇場は1.90対1までだ。つまり、IMAXのチケットには「どのIMAXか」という階層がある——ここから先で、その確かめ方を説明する。
「Filmed for IMAX」は、画角の保証ではない
作品の紹介に「Filmed for IMAX」という表示が出ることがある。これは、IMAXが認定したカメラで撮影し、IMAXでの上映を前提に画面の作り方を決めた、という制作上の枠組みを指す。特定の画角を意味する表示ではない。
実例で見るのが早い。『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021)はIMAX認定のデジタルカメラで撮影され、IMAXの発表によれば、対応する一部の劇場では1.43対1で上映された。フィルムで撮っていなくても1.43対1になることはある。逆に、IMAX上映であっても劇場の設備が1.90対1までなら、そこまでしか開かない。「この作品はIMAXで観ると縦に伸びるのか」は、作品の上映版と劇場の設備の両方を確かめて初めて分かる——面倒だが、これが正確な答えである。
では、観る前にどう確かめるか。見る場所は2つある。第一に、作品側——公式サイトや配給の発表に、IMAX画角の映像を含むかどうか(「IMAX同時公開」「Filmed for IMAX」等)の記載があるか。IMAX画角で作られた映像を含まない作品では、どの劇場で観ても画角は変わらない。第二に、劇場側——各劇場は設備紹介で対応画角や方式を案内している。たとえばグランドシネマサンシャイン池袋はシアター12のIMAXレーザー/GTを日本最大級として案内しており、1.43対1の上映に対応する。同じIMAXの看板でも劇場ごとに設備は違うので、観たい劇場のページで確かめるのが確実だ。
一方、フィルムで撮る側の実例もある。クリストファー・ノーランは『ダンケルク』や『オッペンハイマー』で巨大なIMAXフィルムカメラを使ってきた監督で、2026年9月11日日本公開の新作『オデュッセイア』は、映画史上初めて全編をIMAXフィルムカメラで撮影した作品として公開される。IMAX同時公開も発表済みだ。ただし、撮影が全編IMAXフィルムであることと、どの劇場でも全編が1.43対1で映ることは別である。実際に映る画角は、この作品でも上映版と劇場設備の組み合わせで決まる。
日本最大のIMAXは、ビル6階分の高さがある
設備の話を具体的にする。東京・池袋のグランドシネマサンシャイン シアター12は、日本最大級のIMAXスクリーンを持つ劇場で、幅25.8メートル×高さ18.9メートル。高さはビルの6階分に相当し、1.43対1の上映に対応する。この劇場のIMAX追加料金は通常料金に800円の上乗せである。
体験として何が変わるか。画面が視界の上下を覆うと、映像を「見る」というより「その場にいる」に近づく。とくに縦方向の情報が多い映像——峡谷、超高層、落下、飛行——で差が出る。『DUNE』の砂漠に立つ巨大構造物や、『オッペンハイマー』の核実験の火球のような場面は、上下が開いた画角で観ると物のスケール感が変わる。
音も設備の一部だ。IMAX劇場は専用の音響システムを持ち、座席が震えるほどの低音を出せる。『オッペンハイマー』の核実験の場面では、爆発の光がまず見え、音が数秒遅れて轟く——ノーランが編集で作った「距離」の演出が、低音の出る劇場ほど身体に効く。

Dolby Cinemaは「黒」と「音の動き」に投資している
IMAXとよく並ぶもう一つの看板が、Dolby Cinema(ドルビーシネマ)だ。こちらは画面の形ではなく、明暗と音の位置に手を入れた方式である。日本では丸の内ピカデリー、T・ジョイ横浜などに導入されている。
映像はDolby Visionという方式で、2台のレーザープロジェクターを使って投写する。売りは黒の深さだ。通常の上映では「黒い場面」がうっすら灰色に浮くことがあるが、Dolby Cinemaの暗部は沈み込み、暗いシーンの中の階調——夜の路地の輪郭、影の中の表情——が残る。夜や宇宙の場面が長い作品ほど差が出やすい。
音はDolby Atmos。スピーカーが壁だけでなく天井にも並び、音を「どのスピーカーから出すか」ではなく「空間のどこに置くか」で設計する方式である。頭上をヘリが横切れば、音も頭上を横切る。
どちらが上という話ではなく、方式が磨いている箇所が違う。追加料金はどちらも劇場ごとに設定されている。
席の位置で、見え方はどう変わるか
最後に、いちばん実用的な話。同じ料金でも席で体験は変わる。
正解の席を示す図ではない。劇場ごとに傾斜と画面の高さが違うため、位置による見え方の違いだけを示す。
席に唯一の正解はない。位置で何が変わるかだけ知っておくと選びやすい。前方は画面が視界からあふれ、映像に呑まれる感覚がいちばん強い。かわりに、字幕と画面全体を追うには首と目が動く。中段は目線がスクリーン中央の高さに近づき、画面全体が視野に収まる。後方は画面をやや小さく引きで観る形になり、全体の構図を追いやすい。左右については、音は劇場側が客席全体へ向けて調整しているので、端の席で映画が壊れるわけではない。
そのうえで。IMAX画角の映像を含む作品を、対応する設備の劇場で観たときにだけ、通常上映では映らない範囲まで見える。含まない作品・対応しない劇場では画角は変わらないので、大きさと音の設備に価値を感じるかどうかで決めることになる。

次回
劇場の次は、賞の話。「アカデミー賞受賞」と「パルム・ドール受賞」は、何がどう違うのか。第6回で、誰が選んでいるのかから説明する。9月にはヴェネツィア国際映画祭も開幕する。