大人男子の趣味教養OTONA DANSHI NO SHUMI-KYOYO

FILM — 単発記事

濱口竜介——車の中、稽古場、住民説明会。会話が起きる場所を選んでいる

『ドライブ・マイ・カー』『悪は存在しない』『偶然と想像』の具体的な場面から、この監督の映画で会話がどう置かれているかを見ていく。

公開 2026.07.14最終確認 2026.08.24

この監督の映画では、会話が要点を過ぎても続く。必要なことが出たあとに沈黙が入り、また続く。そのとき人物がどこにいるかが、作品ごとに違う。

THE CAR

『ドライブ・マイ・カー』——走っている車の後部座席

会話の多くが、走っている赤いサーブの中で起きる。運転席にドライバーのみさきがいて、後部座席に演出家の家福がいる。

この配置では、二人の顔が同じ画面に入らない。家福から見えるのはみさきの後頭部で、みさきから見えるのはミラーに映る家福の目だけになる。会話の場面なのに、互いの表情が見えていない。

もう一つ、車内では窓の外が動き続ける。人物が止まっていても、背景に流れが残る。

そしてこの車内で、亡くなった妻が吹き込んだ台詞のテープが流れる。テープには家福が自分の台詞を返せるだけの間が空けてあり、相手がいないまま応答の形だけが続く。

上映時間は179分。題名が画面に出るのは、始まって40分ほど経ってからである。

屋外で立っている男性。背後に建物
濱口竜介(2026年5月・カンヌ国際映画祭の会場にて)Photo: John Sears / WikiPortraits / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(リサイズ)
THE REHEARSAL

同じ映画の稽古場では、俳優が別々の言語で喋っている

家福が演出するのは、多言語版の『ワーニャ伯父さん』である。俳優はそれぞれ日本語、韓国語、中国語、英語で台詞を言い、韓国手話も入る。

稽古の場面では、演出家が俳優に台本を平坦に読ませる。感情を込めずに、何度も。この読み合わせが本編の中で繰り返し映される。

多言語の稽古が進むと、俳優が相手の台詞をどう受けているかが画面に出る。声の高さや途切れ方から相手の芝居を受け取る場面もあれば、通訳を介する場面もある。上演の場面では、韓国手話で演じられる長い台詞が、字幕と手の動きだけで進む。

THE MEETING

『悪は存在しない』——会話劇が、住民説明会に投入される

長野県の高原の町。東京の芸能事務所がグランピング場の建設計画を持ち込み、住民説明会が開かれる。

議題は即物的である。浄化槽をどこに置くのか、容量は足りるのか、水はどうなるのか。この具体的な質疑が続くうちに、説明する側とされる側の立場が画面に出てくる。

会話以外の時間も長い。薪を割る手、湧き水を汲む動作、樹冠を見上げながら進む長いショット。上映時間は106分で、この作品では会話と、会話でない時間が交互に置かれている。

THREE STORIES

『偶然と想像』——独立した三つの短編

互いに関係のない三つの短編で構成されている。全体で121分、一話が約40分で完結する。

第一話は、親友の恋の話がタクシーの中で思わぬ方へ進む。第二話は、大学の研究室で扉を開けたまま交わされる会話。第三話は、同窓会で帰郷した女性の20年ぶりの再会。

三話は独立していて繋がらない。第一話の終盤には、カメラを切り替えずに長く回す箇所がある。第二話は性的な話題を含む会話が中心になる。