この連載の目次(全6回・完結)
- 01いま話題の映画5本——あらすじと、どこが面白いのかいまここ
- 02Netflixで話題の映画5本——あらすじと、面白いポイント無料会員
- 03宮崎駿、黒澤明、北野武、是枝裕和、新海誠、山崎貴——映画監督で何が変わる?読み放題
- 04スピルバーグ、キャメロン、タランティーノ、スコセッシ、ノーラン、ヴィルヌーヴ——作風はどう違う?読み放題
- 05IMAXとは何か——通常上映、IMAX、Dolby Cinemaは何が違う?読み放題
- 06アカデミー賞と三大映画祭——何が違い、誰が選んでいる?読み放題
いま映画館でいちばん人を集めているのは、手のひらサイズの白いキャラクターである。その後ろに、おもちゃと、スパイダーマンと、古代中国の大軍と、マイケル・ジャクソンが続く。5本それぞれの「何の映画で、どこが面白いのか」を、観る前に知りたいことから順に書いていく。
直近の週末(8月21日〜23日)の全国動員ランキングは、1位『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』(5週目・累計興収110億円突破)、2位『トイ・ストーリー5』(8週目)、3位『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』(4週目)。順位は興行通信社の週末ランキングで毎週月曜に更新される。
| 作品 | どんな映画か | 前提知識 | 上映時間 |
|---|---|---|---|
| ちいかわ | 人気キャラたちが島でセイレーンに挑むアニメ | 不要 | 99分 |
| トイ・ストーリー5 | おもちゃ対タブレットの第5作 | ほぼ不要 | 102分 |
| スパイダーマン | 記憶から消えたヒーローの単独章 | 前作の結末だけ | 145分 |
| キングダム | 50万の敵から国門を守る実写大作 | 主要2人を知れば可 | 134分 |
| Michael | マイケル・ジャクソンの伝記映画 | 不要 | 127分 |
話題の規模は、興行通信社の発表数字から。詳しくは各節で。
スパイダーマンは2021年『ノー・ウェイ・ホーム』の結末だけが前提。キングダムは2019年から続く実写シリーズの第5作。
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』——かわいい絵で、ちゃんと怖い話をやる
X(旧Twitter)発の漫画「ちいかわ」の、初めての映画である。原作者ナガノの完全監修で、原作でも人気の長編エピソード「セイレーン編」を映画化した。監督は「ウマ娘 プリティーダービー」シリーズの及川啓。上映時間は99分と短い。
あらすじはこうだ。「報酬100倍」と書かれたチラシに誘われて、ちいかわたちが特別な島へ向かう。着いてみると島民は観光客として歓迎してくれるのだが、本当にお願いしたかったのは別のこと——島を襲う人魚の怪物・セイレーン(声:鈴木みのり)の討伐だった。歌で人を引き込むセイレーンと、逃げ足しか取り柄のない小さな一行。戦力差は絶望的である。
ちいかわを知らない人のために背景を足しておくと、原作は2020年にXで始まった漫画で、単行本とテレビアニメ(フジテレビ「めざましテレビ」内で放送)を経て、キャラクター売り場の一角を占める規模まで育った。観客層は子どもだけではなく、グッズを買い支えてきた20〜30代が厚い。
ちいかわを知らない人がまず戸惑うのは、かわいい見た目と話の落差だと思う。この作品は、小さな生き物たちが労働で報酬を稼ぎ、討伐に駆り出される世界を、絵柄を崩さないまま描く。かわいいものを眺める映画だと思って入ると、割と真剣な冒険と、はっきり怖い場面が待っている。この落差が原作の持ち味で、映画もそこから逃げていない。
数字を並べる。7月24日の公開初週に3日間で動員150万人・興収22億円で1位に立ち、5週目の週末もなお1位。累計興収は110億円を超えた。劇場では入場者特典のシールが週替わりで配られていて、興行通信社のニュースは第2弾のシール配布が動員を押し上げたと伝えている。
『トイ・ストーリー5』——おもちゃの敵が、ついにタブレットになった
7月3日公開。ピクサーの看板シリーズの第5作で、上映時間は102分。今回の主役はウッディでもバズでもなく、カウガール人形のジェシーである。
設定が今の子育ての風景そのままで面白い。おもちゃたちの持ち主ボニーのところに、電子タブレット「リリーパッド」がやって来る。画面の中身は次々に更新されるから、子どもは飽きない。おもちゃは棚で待つことしかできない。遊んでもらえなくなる不安を募らせるジェシーのもとに、離れていたウッディが装いを新たに戻ってくる——ここまでが予告編で明かされている範囲だ。
シリーズを観ていなくても大丈夫か、が気になるところだと思う。結論としては、ほぼ大丈夫である。「おもちゃは人が見ていないときに動く」「持ち主に遊ばれることが彼らの幸せ」という2つのルールさえ知っていれば、話は最初から追える。第4作でウッディがおもちゃたちの元を離れたことだけ頭に入れておくと、彼の再登場の重みが増す。
公開から8週たった週末でも、ランキング2位に残っている。公開2週目の時点で累計動員337万人・興収50億円が目前と発表されていて、そこからさらに6週走り続けている計算になる。客席には子ども連れと、第1作(1995)を子どもの頃に観た大人の両方がいる。
『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』——誰にも覚えられていないヒーローの話
7月31日、日米同時公開。トム・ホランド主演のスパイダーマン第4作で、上映時間は145分。公開初週は3日間で動員97万人・興収15億円の初登場1位だった。
前提として要るのは、前作の結末だけだ。『ノー・ウェイ・ホーム』(2021)の結末で、ピーター・パーカーは世界中の人の記憶から「ピーター・パーカー」を消した。恋人も親友も、彼を覚えていない。本作はその後の話で、誰にも知られないまま、ひとりでニューヨークを守り続けるスパイダーマンから始まる。この一行を知っているかどうかで、冒頭の孤独の意味がまるで違ってくる。
今回の相手役が渋い。銃で犯罪者を処刑していく自警団パニッシャー(ジョン・バーンサル)と、あのハルク(マーク・ラファロ)が登場する。予告編はスパイダーマン対ハルクの絵をはっきり見せていて、「話し合いが通じない相手とどう戦うか」が軸になることが分かる。宇宙規模の危機ではなく、ニューヨークの路上の犯罪と向き合う「親愛なる隣人」路線への回帰で、監督は『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のデスティン・ダニエル・クレットンに交代した。145分という長さはシリーズでも長めで、初登場1位のあと、4週目の週末でも3位に残っている。

『キングダム 魂の決戦』——今年の実写映画で最大のオープニング
7月17日公開。原泰久の漫画を実写化してきたシリーズの第5作で、監督は全作を手がける佐藤信介、主演は山﨑賢人。公開3日間で動員99万人・興収15億8000万円——これは今年公開された実写映画で最大のオープニング成績である。
3連休を含めた公開4日間では動員131万人・興収20億円まで伸びた。描かれるのは原作屈指の人気エピソード「合従軍編」だ。あらすじはこうなる。主人公・信は戦功を重ねて千人将に昇格した。そこへ急報が入る。敵国・趙の宰相 李牧の策略で、秦以外のすべての国が手を組み、総勢50万の「合従軍」となって秦へ攻め込んできた。信は若手の将・蒙恬や王賁とともに、国門・函谷関の防衛戦へ向かう。
シリーズは2019年の第1作から実写で続いていて、監督は5作すべて佐藤信介——『GANTZ』や『アイアムアヒーロー』を撮ってきた、日本で数少ない大規模アクションの専門家である。シリーズ途中からでも観られるのか。正直に言えば、第1作から順に観たほうが人間関係は深く効く。ただ本作は「国が滅びるかどうかの防衛戦」という一本筋の話なので、「信=下僕から成り上がってきた主人公」「嬴政(えいせい)=のちの始皇帝である若き王」の2人さえ押さえれば、初見でも戦いは追える。物量で見せるタイプの大作で、城壁に大軍がぶつかる画面の圧は劇場向きだ。

『Michael/マイケル』——甥が、キング・オブ・ポップを演じる
6月12日公開。マイケル・ジャクソンの伝記映画である。監督は『トレーニング デイ』『イコライザー』のアントワーン・フークア、脚本は『グラディエーター』のジョン・ローガン、製作には『ボヘミアン・ラプソディ』のグラハム・キングが名を連ねる。
この映画がまず話題になったのは、主演のキャスティングだった。マイケルを演じるジャファー・ジャクソンは、兄ジャーメイン・ジャクソンの息子——つまり実の甥である。血縁者が伝記映画の本人を演じる例はめったにない。歌と踊りの再現は予告編の時点で話題になっていた。
数字も規格外だ。世界興収は7月時点で10億ドル(約1600億円)を超え、『ボヘミアン・ラプソディ』を抜いて伝記映画の史上最高記録になった。10億ドルに届いた伝記映画は史上初である。日本でも公開から41日で興収66億円を超えた。配給が東宝でもディズニーでもなく、キノフィルムズという独立系の会社であることも珍しく、独立系配給の日本記録を塗り替えている。
前提知識は要らない。「スリラー」「ビリー・ジーン」——曲を数曲知っていれば、2時間ずっと音楽が引っ張ってくれる。ムーンウォークが世界に初披露されたのは1983年のテレビ番組である。一方で、彼の生涯にまつわる議論をこの映画がどこまで扱っているかについては、公開時から評価の割れているところで、まず歌と踊りの再現を観る映画として作られている。
