この連載の目次(全8回・完結)
- 01服の話は、センスで勝負しなくていい無料
- 02セレクトショップとは何なのか無料会員
- 03ブランド名鑑・国産編読み放題
- 04ブランド名鑑・海外編いまここ
- 05名品の系譜——なぜ「定番」は定番になったのか読み放題
- 06セールで冒険、定価で定番読み放題
- 07古着とアーカイブの教養読み放題
- 08最終回——服の話に入る読み放題
「それ、どこの?」「あー、マルジェラ」——服好きの会話で海外ブランドの名前が出たとたん、うなずくしかできなくなる人へ。第1回で「作り手で見る」を、第3回で国産の無地ブランドを渡した。今回は、その海外版を渡す。
まず、名前は耳にするのに正体がつかめない一つから。メゾン マルジェラ(Maison Margiela)。爪先が足袋みたいに割れたブーツ、あるいは「奇抜なブランド」という印象で止まっている人が多い。だが、そこで止まると何も読めない。創業者のマルタン・マルジェラはベルギー出身。アントワープの王立美術学校を出て、パリでジャン=ポール・ゴルチエのアシスタントを務めたのち、1988年に自らのメゾンをパリで立ち上げた。
このブランドの服には、ロゴも名前もない真っ白なタグが、四つの白いステッチだけで留めてある。0から23までの番号で、どのラインかを示すだけだ。なぜ名前を消すのか——マルジェラは服の主役を「作り手の有名さ」から引きはがしたかった。彼の代名詞がデコンストラクション、裏地や縫い代といった、ふだんは隠れている作りの部分を、あえて表に出す手法だ。爪先の割れた足袋ブーツも、奇をてらったのではなく、履き物の常識をずらして見せるための一手だった。作り手本人は徹底して表に出ず、写真に写らず、取材にはファックスで、しかも主語をいつも「私たち(we)」にして答えた。
つまりマルジェラは「変わった服を作る人」ではない。「服とは何か、作り手とは何か」を問い続けた作り手で、その問いが服の隅々に縫い込まれている。第1回で渡した「作り手で見る」は、海外ブランドでもそのまま効く——いや、マルジェラは自分を消すことで、その見方を裏側から証明してみせた極端な一例だ。創業者本人は2009年にメゾンを去り、その後ジョン・ガリアーノが、2025年からはグレン・マルタンが受け継いだ。それでも白いタグと四つのステッチは残っている。思想は、人より長く生きる。
ここまでで、海外ブランドは奇抜さではなく作り手の経歴で読める、と分かりました。続きでは、ルメールとA.P.C.の思想と、会話での使い方までを渡します。
読み放題プラン限定
ルメールとA.P.C.——静かな作り手の2人 / 会話での使い方
受付は準備中です。開始はニュースレターでお知らせします。