この連載の目次(全6回・完結)
- 01スーパードライ、一番搾り、黒ラベル、ヱビス——定番4本は何が違う?
- 02クラフトビールって何?——よなよな、銀河高原、SPRING VALLEY BREWERYの3本で知る
- 03同じ生ビールでも、店で味が変わる
- 04日本のクラフトビールはどう広がった?——エチゴ、よなよな、COEDO、常陸野ネスト
- 05缶の「限定」「プレミアム」「発泡酒」は、何を意味する?
- 06世界の定番ビールは何が違う?——ラガー、スタウト、白ビールを飲み比べるいまここ
スーパーや酒販店の輸入ビールの棚には、日本の定番とは色も形も違う瓶と缶が並ぶ。緑の瓶のハイネケン、透明な瓶のコロナ、赤いラベルのバドワイザー、黒いギネス、白く濁るヒューガルデン、金色のピルスナーウルケル。見た目がこれだけ違えば、味も違う。この6本が、第1回の定番4本と何が違うのかを飲み比べる。

ハイネケン、コロナ、バドワイザー——同じ淡色ラガーで、味は別
世界で広く飲まれているビールの多くは、淡い金色のラガーである。輸入ビールの棚でよく見る3本——オランダ生まれのハイネケン、メキシコ生まれのコロナ・エキストラ、アメリカ生まれのバドワイザー——も、どれもそこに入る。ところが並べて飲むと、苦味も、甘みも、炭酸の強さも、飲み込んだあとの残り方も違う。

ハイネケンは、緑の瓶に赤い星。香りは控えめで、かすかに果物を思わせる風味が奥にある。口に入れると炭酸の刺激が強めに来て、軽い麦芽の甘みのあと、苦味がほどほどに効く。キレよくすっと切れて、後味は短い。国産の濃いめのラガーに慣れた口には、物足りなく感じられることもある。瓶でも缶でも中身は同じで、グラスに注ぐと香りが立ちやすい。輸入ビールの中では手に取りやすく、コンビニやスーパーの棚でも見かける。樽から注ぐ店もある。

コロナ・エキストラは、さらに軽い。透明な瓶に淡い麦わら色で、アルコール分は4.5%と低め。香りはごく弱く、苦味はほとんどなく、よく冷やすと水のようにすっと入って、後味もほぼ残らない。その淡さを変えるのがライムである。写真のように、くし切りのライムを瓶の口に挿して出すのが日本の店でも定番で、飲む前に瓶の中へ押し込むと、柑橘の酸味と香りが加わる。淡かった味が締まり、爽快感がはっきり増す。単体では薄いと感じる人も、ライムを入れると印象が変わる。瓶は、輸入食品の店やスーパーの輸入ビールの棚で見かける。
バドワイザーは、赤いラベルのアメリカのビール。飲むと、香りと麦の甘みは控えめで、炭酸の刺激が先に来る。苦味は弱く、飲み込んだあとに味が早く引く。よく冷えているうちはすっと飲めて、炭酸が抜けてぬるくなると、ほのかな甘みと味の薄さがはっきり出る。原材料には、大麦麦芽とホップに加えて米も使われている。缶や瓶はスーパーや通販で買え、スポーツバーやアメリカ料理の店では、樽から注ぐ一杯に会うこともある。
3本とも軽さが持ち味だが、軽さの中身は違う。ハイネケンは炭酸とキレ、コロナはライムを足して締まる淡さ、バドワイザーは炭酸の刺激と、早く引く後味。なお、輸入ビールと呼ばれていても、日本で売られている缶や瓶が海外で造られているとは限らない。国内でライセンス生産されるものもあり、造られた場所は時期によっても変わる。手にした一本がどこで造られたかは、缶の表示で確かめられる。
ギネスは、なぜ泡が細かいのか
黒いビールの代表が、アイルランドのギネスである。冒頭の写真の泡は、日本の生ビールの白い泡とは別物に見える。きめが細かく、クリームのようで、飲み進めてもグラスの内側に層が残る。
理由は、泡を作る気体にある。ふつうのビールの泡は炭酸ガスだが、ギネス ドラフトは窒素を使う。窒素の泡は炭酸ガスの泡より小さく、あのクリーム状の口当たりになる。缶には「ウィジェット」という窒素入りのカプセルが仕込まれていて、開栓と同時に窒素が吹き出し、家のグラスでも同じ泡が立つ。
飲むと、まずきめの細かい泡が口に触れる。香りは、焦がした麦のコーヒーのような香ばしさ。炭酸の刺激はほとんどなく、飲み口は見た目よりずっと軽くドライで、飲み込んだあとに焙煎由来の苦味だけがゆっくり長く残る。黒い見た目から想像するほど重くない——ここがこのビールのいちばん意外なところだ。中身は焙煎した麦芽を使うスタウトで、日本で売られている缶の表記でアルコール分4.5%。日本の定番の5%より低い。
樽から注ぐギネスは、アイリッシュパブで見かけることが多い。ただし、それだけの店の飲みものではなく、各国料理の店や居酒屋の黒板にも並ぶ。缶は酒販店や大型のスーパー、通販で手に入る。
ヒューガルデンは、なぜ白く濁っているのか

白いビールの代表が、ベルギーのヒューガルデン ホワイトである。第2回の銀河高原ビールがドイツ系の白(ヴァイツェン)なら、こちらはベルギー系の白(ベルジャンホワイト)。同じ小麦のビールでも、香りの作り方が違う。
白い濁りは、濾過をしないことから来る。小麦のタンパク質と酵母を濾し取らずに残すので、光を通さず白く見える。瓶の底には酵母が沈むから、注ぐ途中で瓶を回して混ぜ、最後まで注ぎ切る。沈殿ごとグラスに入れて飲むビールである。
飲むと、キリッとした入り方はしない。白く濁った小麦のまろやかさが先に来て、オレンジの酸味とコリアンダーの香りが立ち、苦味はほとんど残らずさっぱり切れる。ドイツ系のバナナのような香りが酵母から生まれるのに対して、こちらの香りは原材料表示に並ぶ乾燥オレンジピールとコリアンダーシードから来る。
スーパーや輸入食品の店で瓶を見かけるほか、ベルギービールを置く店では、六角形の専用グラスで出てくることが多い。

ピルスナーウルケル——麦の甘みと、長く残る苦味

ピルスナーウルケルは、1842年にチェコのプルゼニュで造られ、後に「ピルスナー」と呼ばれるスタイルの出発点になった。ピルスナーの名は、街のドイツ語名「ピルゼン」に由来する。淡い金色で透きとおったこのタイプは、その後、各地で造られるようになった。「ピルスナーウルケル」という名は、ピルスナーの源流であることを表している。
飲むと、まずハチミツやカラメルを思わせる麦芽の甘い香りが来る。口の中では、煮詰めた麦の甘みと、ザーツホップの深い苦味が、同じ強さで正面からぶつかる。苦味は飲み込む間際から強くなり、鼻に抜けて長く続く。そして泡まで甘い。「ピルスナー」という語感から想像する淡さより、ずっと濃い一杯である。ハイネケンやバドワイザー、第1回の定番4本と並べると、同じ金色のラガーの中にこれだけの幅がある。
缶は、輸入ビールの棚がある大型のスーパーや酒販店で買える。樽から注ぐ一杯を出す店はもっと限られていて、ビアバーやチェコ料理の店で見かける。
6本を並べると、違いが見える
6本とも、日本国内で買える。カウンターに並べると、緑の瓶のハイネケン、ライムを挿したコロナ、赤いラベルのバドワイザー。クリーム色の泡を載せた黒いギネス。白く霞んで、オレンジの香りが立つヒューガルデン。透きとおる金色で、ザーツホップの苦味が強いウルケル。色も、泡も、香りも、苦味も、それぞれ違う6本である。