大人男子の趣味教養OTONA DANSHI NO SHUMI-KYOYO

SPORTS連載「サッカーの教養」第8回

最終回——三笘薫の一場面と、競技規則の書き方——2022年ワールドカップ、対スペイン戦。ボールが「出た」とはどういう状態か

ボールがラインを割ったように見えて、割っていなかった。2022年ワールドカップ対スペイン戦の折り返しを、JFAの試合報告とIFAB競技規則の条文から読み解く最終回。上から見た図で、インとアウトの境目と、得点の条件を確かめる。

公開 2026.07.20最終確認 2026.08.07
この連載の目次(全8・完結
  1. 01浦和レッズ、Jリーグ、久保建英、日本代表、ワールドカップ——それぞれ何を指すか
  2. 02海外サッカーは、5つの主語で読める
  3. 03レアル・マドリード、バルセロナ、プレミアの3クラブ——何で知られているか
  4. 04ワールドカップとチャンピオンズリーグは、別の系統の一番上にある
  5. 05移籍には窓がある——夏と冬、決められた期間しか動けない
  6. 06欧州の試合が日本時間の深夜になる理由と、時差の計算
  7. 07ワールドカップとワールドカップのあいだに、何があるのか
  8. 08最終回——三笘薫の一場面と、競技規則の書き方いまここ

連載の最後は、試合の一場面だけを取り出して細かく見る。2022年のワールドカップ、グループリーグの日本対スペイン。ゴールラインを割ったように見えたボールを、一人の選手が折り返した場面である。あの判定を決めたのは、競技規則の条文だった。

ONE MOMENT

あの折り返しは、なぜ「出ていない」のか

日本サッカー協会が公開している試合報告に、この場面の経緯が残っている。後半、権田からの長いフィードが伊東を経由して田中へ渡り、堂安がゴール前へクロスを入れる。そこへ前田と三笘が飛び込み、三笘がスライディングで触れてボールを中へ戻し、田中が無人のゴールへ押し込んだ

その直後、プレーはVARの確認に入った。JFAの報告は、確認の内容をこう書いている——三笘がゴールライン上でボールをインプレーに保っていたかどうか。確認の結果、得点は認められ、日本が2対1とリードした。

判定を分けたのは、ボールが「出た」とはどういう状態かという条文のほうにある。

サッカーの競技規則は、IFAB(国際サッカー評議会)が定めていて、条文は公開されている。第9条「The Ball in and out of Play」にはこう書かれている——ボールがアウトオブプレーになるのは、ゴールラインまたはタッチラインを、地上または空中で完全に(wholly)越えたときである。

前提がもう一つある。第1条「The Field of Play」には、ラインはそれが境界となっている区域に属すると書かれている。白線そのものがフィールドの一部だということである。

この二つを合わせると、境目はこうなる。

FIG. 01
ボールを真上から見たときの、インとアウト
フィールドの内側フィールドの外側インプレーまだ線を越えていないインプレー一部が線にかかっているアウトオブプレー全体が線を越えた白い帯がライン。ラインもフィールドの一部にあたる。

ラインを真上から見た模式図。ボールが地面に触れている一点ではなく、上から見た円がラインにかかっているかどうかで判断する。

ボールは球体なので、真上から見た円は、地面に触れている一点よりずっと広い。芝の上ではもう外に出ているように見えても、上から見ればまだ線にかかっている——そういう状態が起こる。判定で問題になったのは、ボール全体とラインの位置関係だった。

そして、外へ転がっていくボールに追いつき、上体を倒しながら中へ返した。第2回で扱った「ライン際で消えたはずのボールに追いつく」というのは、この形を指している。

同じ書き方は、得点の条件にも出てくる。第10条によれば、得点が認められるのはボールの全体がゴールラインを越え、ゴールポストの間とクロスバーの下を通ったときである。ゴールライン上でかき出されたボールが得点にならないのは、この「全体が」という一語で決まっている。

SERIES COMPLETE — 連載完結連載「サッカーの教養」全8回・完結。どの回からでも読み返せます。