この連載の目次(全8回・完結)
連載の最後は、試合の一場面だけを取り出して細かく見る。2022年のワールドカップ、グループリーグの日本対スペイン。ゴールラインを割ったように見えたボールを、一人の選手が折り返した場面である。あの判定を決めたのは、競技規則の条文だった。
あの折り返しは、なぜ「出ていない」のか
日本サッカー協会が公開している試合報告に、この場面の経緯が残っている。後半、権田からの長いフィードが伊東を経由して田中へ渡り、堂安がゴール前へクロスを入れる。そこへ前田と三笘が飛び込み、三笘がスライディングで触れてボールを中へ戻し、田中が無人のゴールへ押し込んだ。
その直後、プレーはVARの確認に入った。JFAの報告は、確認の内容をこう書いている——三笘がゴールライン上でボールをインプレーに保っていたかどうか。確認の結果、得点は認められ、日本が2対1とリードした。
判定を分けたのは、ボールが「出た」とはどういう状態かという条文のほうにある。
サッカーの競技規則は、IFAB(国際サッカー評議会)が定めていて、条文は公開されている。第9条「The Ball in and out of Play」にはこう書かれている——ボールがアウトオブプレーになるのは、ゴールラインまたはタッチラインを、地上または空中で完全に(wholly)越えたときである。
前提がもう一つある。第1条「The Field of Play」には、ラインはそれが境界となっている区域に属すると書かれている。白線そのものがフィールドの一部だということである。
この二つを合わせると、境目はこうなる。
ラインを真上から見た模式図。ボールが地面に触れている一点ではなく、上から見た円がラインにかかっているかどうかで判断する。
ボールは球体なので、真上から見た円は、地面に触れている一点よりずっと広い。芝の上ではもう外に出ているように見えても、上から見ればまだ線にかかっている——そういう状態が起こる。判定で問題になったのは、ボール全体とラインの位置関係だった。
そして、外へ転がっていくボールに追いつき、上体を倒しながら中へ返した。第2回で扱った「ライン際で消えたはずのボールに追いつく」というのは、この形を指している。
同じ書き方は、得点の条件にも出てくる。第10条によれば、得点が認められるのはボールの全体がゴールラインを越え、ゴールポストの間とクロスバーの下を通ったときである。ゴールライン上でかき出されたボールが得点にならないのは、この「全体が」という一語で決まっている。