大人男子の趣味教養OTONA DANSHI NO SHUMI-KYOYO

SPORTS連載「サッカーの教養」第5回

移籍には窓がある——夏と冬、決められた期間しか動けない——移籍金、契約満了、期限付き。ネイマールの2億2200万ユーロとボスマン判決

サッカーの移籍が決められた登録期間の中で成立する仕組みと、移籍金・契約満了・期限付きという動き方の違いを見る回。

公開 2026.07.20最終確認 2026.08.24
この連載の目次(全8・完結
  1. 01浦和レッズ、Jリーグ、久保建英、日本代表、ワールドカップ——それぞれ何を指すか
  2. 02海外サッカーは、5つの主語で読める
  3. 03レアル・マドリード、バルセロナ、プレミアの3クラブ——何で知られているか
  4. 04ワールドカップとチャンピオンズリーグは、別の系統の一番上にある
  5. 05移籍には窓がある——夏と冬、決められた期間しか動けないいまここ
  6. 06欧州の試合が日本時間の深夜になる理由と、時差の計算
  7. 07ワールドカップとワールドカップのあいだに、何があるのか
  8. 08最終回——三笘薫の一場面と、競技規則の書き方

選手が別のクラブへ移るには、選手登録を受け付ける期間の中で手続きを終える必要がある。この期間を移籍ウィンドウという。夏と冬に移籍のニュースが集中するのは、この期間の設計による。

登録期間は各国の協会が定めてFIFAへ届け出る。FIFAの規則は、1シーズンにつき登録期間を2回置く形を基本としている。ヨーロッパの主要リーグでは、夏の期間がおおむね6月中旬から9月初めまで、冬の期間が1月に置かれることが多い。ただし、開始日も終了日もリーグごとに違い、年によっても動く。

期間の最終日はデッドラインデーと呼ばれる。締め切り間際に契約が駆け込みでまとまることが多く、その日はニュースが一日中動く。

なお、この期間の外では一切登録できない、というわけではない。FIFAの規則には例外があり、契約がすでに満了している選手(所属クラブのない選手)は、登録期間の外でも登録できる場合がある。「無所属の選手が冬の途中で加入した」という話が出るのは、この規定による。

TRANSFER FEE

完全移籍——契約を買い取るために移籍金を払う

選手はクラブと期限のある契約を結んでいる。契約期間の途中で別のクラブへ移る場合、移る先のクラブが元のクラブへ移籍金を払う。契約が残っている選手を手放してもらうための対価だ。

金額を左右するものは一つではない。選手の実力や年齢はもちろん、契約が何年残っているかが大きく効く。残りが長ければ、元のクラブは高い額を要求できる。逆に残りが短ければ、翌年には移籍金なしで出ていく可能性があるので、額は下がる。

契約書に解除条項(バイアウト条項)が入っていることもある。この金額を払えば元のクラブの同意なしに交渉へ進める、という取り決めで、スペインのリーグでは広く使われている。加えて、売る側のクラブがその年に資金を必要としているかどうか、といった事情も絡む。

史上最高額は2017年、バルセロナからパリ・サンジェルマンへ移ったネイマールの2億2200万ユーロで、この記録はいまも破られていない。この移籍では、パリ・サンジェルマン側が契約の解除条項に相当する額を支払う形が取られた。

BOSMAN

フリー移籍——契約が切れれば、移籍金は発生しない

契約が満了した選手は、移籍金なしで他のクラブと契約できる。

この権利を確立したのが、1995年のボスマン判決だ。ベルギーの選手ジャン=マルク・ボスマンが起こした裁判で、欧州司法裁判所は、契約満了後の選手の移籍にクラブが移籍金を要求することはEU域内の労働者移動の自由に反すると判断した。

この判決以降、契約の残り期間がクラブの資産価値そのものになった。残り1年を切った選手は、翌年に移籍金ゼロで出ていける状態に近づく。だから、クラブは契約を延長するか、そうなる前に売却するかの判断を迫られる。

「契約残り1年」という一見地味な情報が移籍のニュースで扱われるのは、この判決があるためだ。

LOAN

期限付き移籍——契約を残したまま、別のクラブへ

期限付き移籍(レンタル)は、元のクラブとの契約を残したまま、期間を決めて他のクラブでプレーする形だ。

移籍金の代わりに、レンタル料や給料の一部負担といった条件が組まれる。契約期間が終われば、選手は元のクラブへ戻る。

出場機会の少ない若手が試合に出るために使われる例はよく知られているが、用途はそれだけではない。実績のある選手が、給与の一部を移籍先が負担する形で移ることもある。シーズン途中に欠員が出たクラブが、買い取りではなく期限付きで補うこともある。買い取りの選択権や義務が条件に組み込まれ、実質的に完全移籍の前段階になっている例もある。

THE STAGES

ニュースの言葉は、段階を示している

一つの移籍は、いくつかの段階を経て成立する。ニュースの見出しに使われる言葉は、その段階に対応している。

「関心」「興味を示す」は、まだ何も動いていない状態を指す。「オファー」は、移籍先のクラブが元のクラブへ条件を提示した段階。「個人合意」は、選手と移籍先の給与や契約年数がまとまった段階で、クラブ間の合意とは別だ。「メディカルチェック」まで進むと、身体検査を受ける段階なので、成立は近い。

ここに、規則とは無関係の言葉が一つ混じる。移籍情報を扱うイタリアの記者ファブリツィオ・ロマーノが使う「Here we go」という決まり文句だ。これは公式の手続きでも、何かの段階を示す用語でもない。この記者が自分の取材に確信を持ったときに書き添える定型句が、読者のあいだで目印として通用するようになったものである。

同じ選手の名前が日をまたいで違う言葉で出てくるとき、進んでいる段階が変わっている。

次回

移籍で行き先が決まると、次は試合をいつ観るかの問題になる。第6回では、欧州の試合が日本時間の何時に行われるのかを見ていく。