山梨は、甲府盆地とその周りの丘や高地に畑が広がる産地だ。白の主役は甲州、赤の主役はマスカット・ベーリーA。この2品種が、県のワイン用ぶどうの中心にある。甲州の白は色がきわめて淡く、香りは繊細で控えめ。マスカット・ベーリーAの赤は、イチゴを思わせる甘い香りに、穏やかな渋みが続く。
甲州の白は、どんな味か

甲州は白ワインになるぶどうだが、皮の色は灰色がかったピンクをしている。果汁のほうは白く、皮を漬け込まなければ、できあがる色はきわめて淡い。
香りは和柑橘と白桃。強く立ち上がるのではなく、繊細で控えめだ。アルコールは低めで、口に入ると軽い。酸は澄んでいて切れがよく、後味を引き締める。
もうひとつ、甲州にはわずかな渋みがある。口の中では味の厚みになり、飲み下したあとの余韻を長く残す。山菜や筍とも合わせやすい。
グレイス甲州は、甘夏やオレンジの柑橘に、リンゴと洋ナシ、熟した白桃。後半にかけて、仄かな苦みを伴った旨味と酸がしなやかに続く。
すっきりした白から、色のついた白まで
シャトー・メルシャンの山梨甲州は、グレープフルーツと熟したパイナップルの香り。軽やかなのに厚みがあって、すっきり飲める。
ラベルに「シュール・リー」と書かれたものがある。発酵を終えたあとも澱とともに置く造りで、1980年代の初めに山梨で広まった。丸藤葡萄酒工業のルバイヤート甲州シュール・リーは、酵母から来る風味に旨味が乗って、清々しい辛口になる。
樽の香りを伴うものもある。シャトー・メルシャンの岩崎甲州は、ユズや洋ナシに、バニラとナッツが重なる。豊かな酸が余韻を締める。グレイスの甲州 鳥居平畑は、黄リンゴと黄桃の果実香に丁子が混じり、口当たりが丸い。
皮ごと漬け込むと、色から違ってくる。笛吹甲州グリ・ド・グリは優しいピンクオレンジで、紅茶やアップルパイ、カリンの香り。口に含むと心地よい酸に、紅茶のようなほのかな渋み、ヨーグルトや桃のコンポート。合う料理も、春巻きやエビチリ、イベリコハムへ変わる。
マスカット・ベーリーAの赤
マスカット・ベーリーAは、新潟の岩の原葡萄園で川上善兵衛が交配した品種だ。生まれは新潟だが、いまは山梨の赤の主役になっている。
香りの特徴はイチゴだ。少し甘さを感じさせる果実の香りで、綿あめやキャンディにたとえられることもある。甘いのは香りで、味は辛口に仕上がるものが多い。渋みは穏やかで口当たりは滑らかなので、赤ワインの渋みが苦手な人にもすすめられる。
ただし、造り手はこの甘い香りを抑える方向にも造る。シャトー酒折のエステート マスカットベリーAでは、キャンディの香りは控えめで、チェリーのコンポートとコーヒー、青コショウが前に出る。渋みは少なく酸も穏やかで、余韻に熟したイチゴが残る。
味の幅も大きい。軽く仕上げたものは、果実味のみずみずしいライトボディ。樽で長く寝かせたシャトー・メルシャンの穂坂マスカット・ベーリーAは、果実の凝縮感と力強い酸を持つ厚い赤になる。ロゼも微発泡もある。色は、明るいガーネットから淡いルビーまで振れる。
棚の畑と、混ぜた一本

頭上に水平な棚を組んで枝を這わせる棚仕立てが、この産地の畑の見慣れた姿だ。雨が多く、樹の勢いも強い甲州を育てるのに合う形として広まってきた。いまは垣根仕立てで甲州を育てる造り手もいて、グレイスは三澤農場で本格的に取り組んでいる。

畑の名を掲げる一本がある。勝沼の菱山は町でいちばん高いところにある畑で、ここの甲州は酸がはっきり出る。同じ勝沼の鳥居平は南西を向いた斜面で、笹子峠から冷たい風が吹き下ろす。ここの甲州は厚みがあり、余韻が長い。畑があるのは勝沼だけではなく、盆地の北西、韮崎の穂坂の丘にも広がっている。
一方で、いくつかの地区のぶどうを混ぜた一本もある。シャトー酒折の甲州ドライは、熟した和柑橘とリンゴ、白い花の香りに、軽快な口当たりと旨味が続く。
勝沼の岩崎地区には、明治10年にぶどう栽培とワイン醸造を学びにフランスへ派遣された高野正誠と土屋龍憲の生家がある。両家の畑はいまもぶどうを育てていて、そのぶどうから造られるのが、さきほどの岩崎甲州だ。
温度と料理
甲州はよく冷やす。10〜12℃あたり。マスカット・ベーリーAは、軽いものなら同じくらい、樽で寝かせたものは15〜18℃で。
甲州は、刺身や寿司、白身魚の天ぷら、野菜の煮物、焼き魚と合う。香りが控えめなぶん、繊細な味付けを消さない。
マスカット・ベーリーAは、醤油とみりんの甘辛い味付けと合う。タレの焼き鳥、すき焼き、うなぎの蒲焼き、肉じゃがや筑前煮。どれも家庭の食卓にある味付けだ。