大人男子の趣味教養OTONA DANSHI NO SHUMI-KYOYO

DRINKワイン産地図鑑チリ

チリ——手頃な赤白の中身と、谷ごとに変わる味

南米の太平洋岸に細長く伸びるワイン産地チリは、どんなワインを産むのか。手頃な赤白が広く出回る背景、この国の顔になったカルメネールの黒コショウと青い香り、マイポとコルチャグアの赤、朝霧のカサブランカとリマリの白、海の影響がないマウレの古木、料理と温度まで。

チリは、南米の太平洋岸を南北に細長く伸びる国で、日本の棚では手頃な赤白の産地として知られている。ただし畑は、北の砂漠の縁から、夏でも風の冷たい南の端まで広がっていて、その間で味は大きく動く。

EVERYDAY

棚に並ぶ一本の中身

コノスルがビシクレタ・レゼルバの名で出しているシラーは、イチゴやイチジクのジャムのような煮詰めた果実の香りに、渋みは豊富だが口当たりはなめらかで厚い。同じシリーズのヴィオニエは、アプリコットと白桃、クチナシの香りで、酸はあるのに口当たりは柔らかい。

雨は冬に集中し、ブドウが実る夏の終わりから晩秋にかけては乾く。乾いているぶん、ブドウに病害が出にくい。

白いバラの並ぶ土の作業道の突き当たりに低い建物、その真後ろにアンデスの前山が迫る
サンティアゴのペニャロレン。畑のすぐ後ろにアンデスの前山が立つ。11月撮影Photo: Richard Espinoza / Wikimedia Commons / CC BY 3.0リサイズ

畑は南北に長く連なる谷に分かれている。北の乾いた高地、天文台の並ぶエルキではシラーがスパイシーで複雑になり、雨の多い南のビオビオではピノ・ノワールとシャルドネが育つ。棚でよく見るアルパカやフロンテラもチリのワインで、この2つと、上のビシクレタ・レゼルバの別の品種は、連載第2回で一本ずつ扱っている。

CARMENÈRE

カルメネール——黒コショウと、青い香り

赤橙から金に紅葉した畝が画面いっぱいに広がり、奥に木立と霞んだ山塊
ビーニャ・ティパウメのカルメネールの畑。葉が赤や金に色づいた5月に撮影Photo: FRPGCHILE / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0リサイズ

チリの赤で、この国の顔になっているのがカルメネールである。色は濃いガーネットで、ブラックベリーやプラムの果実に黒コショウのスパイス、コーヒーやビターチョコレートのような焙煎の匂いが重なる。酸は控えめ、渋みはカベルネ・ソーヴィニヨンより穏やかで柔らかく、口当たりはなめらかだ。

もう一つ、ピーマンを思わせる青い香りが混じる。この品種につきものの香りである。コノスルの20バレルでは、凝縮した黒い果実の香りにこの青さとカカオが並ぶ。同じ造り手のグリーンソサエティは、ブラックベリーの香りにスパイスとダークチョコレートが乗り、渋みはなめらかにまとまる。

もとはボルドーの品種で、19世紀半ばのフィロキセラの害のあと、ヨーロッパではほとんど造られなくなった。チリにはその前に持ち込まれていて、それから100年ほど、メルローと思われたままメルローの畑に混じっていた。1994年に、メルローとされていた木の一部がカルメネールだと分かる。いま作付面積が最大なのはコルチャグアで、マウレのカルメネールは、スパイスと黒コショウの香りがとりわけ強く出る。

RED VALLEYS

赤の谷——マイポ、コルチャグア、マウレ

マイポは、カベルネ・ソーヴィニヨンの産地として知られる谷だ。畑は東のアンデス山麓と、西の海岸山脈の砂質土壌に分かれる。ここのカベルネは骨格のはっきりした渋みを持つ。ウンドラーガがテロワール・ハンターの名でアルト・マイポから造る一本は、熟したカシスとブラックチェリーに、ハーブやシダのような緑の香りが重なる。

南のコルチャグアでは、海岸の丘が低いぶん太平洋の風が谷に入り、アンデスから下りる風と交わる。ブドウがゆっくり熟し、酸が残る。色がよく出て、新鮮さと、長く置ける力を併せ持つ赤になる。

さらに南のマウレは、海の影響を受けない。そのかわり昼と夜の気温の差が大きい。チリの畑の多くは水を引いて育てるが、ここには水を引かない古い区画と、支柱を使わない株仕立ての木が残る。ウンドラーガがテロワール・ハンターの名でマウレから造るカリニャンは、樹齢40年を超える古木から穫れる。きめの細かい渋みと骨格を持ち、アルコールは高めに出る。

COOL VALLEYS

白と、冷涼な赤——カサブランカ、リマリ、ビオビオ

手前に木の支柱と針金の畝、赤褐色の土。奥に谷底の平らな畑と低い山並み
カサブランカ・ヴァレーの畑。畝の下は赤褐色の土。3月撮影Photo: Alvaro M. Tello / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0リサイズ

カサブランカは、太平洋の影響で気温の上がりにくい産地で、朝には霧が谷へ降りる。同じ谷の中でも植わるものは場所によって違い、高くて暖かく霜の降りない一帯にはメルローやシラー、低くて涼しい一帯には白ブドウが植わる。

コノスルがこの谷で出しているシングルヴィンヤードのシャルドネは、トロピカルフルーツや白桃の柔らかい香りに白い花が混じり、きれいな酸とリッチな果実味が同居する。ソーヴィニヨン・ブランもこの谷の顔で、同じ造り手のグリーンソサエティは、柑橘とグレープフルーツにハーブの匂いが混じり、酸がキリッと切れる。

北のリマリは、チリでは数少ない石灰質の土を持つ谷だ。朝霧はここでも降り、カマンチャカと呼ばれる。ウンドラーガがテロワール・ハンターの名でリマリの西側から造るシャルドネは、フレッシュな果実味にミネラルの感じがあり、口当たりはソフトでクリーミー。アルコールは軽い側にとどまる。

南のビオビオは、夏でも寒く風が強い。雨が多く、土は砂と石が多い。ここではピノ・ノワールとシャルドネが育ち、ビオビオ川の南ではリースリングも植わる。コノスルのスパークリングもこの谷のブドウで、酵母や蜂蜜のニュアンスが泡に乗る。

涼しい谷では赤も造る。コノスルがサンアントニオの畑から造るグリーンソサエティのピノ・ノワールは、ラズベリーやブラックベリーの香りに心地よい酸とやわらかい渋みで、余韻が長い。

TABLE

温度と料理

赤は16〜18℃、白は12〜14℃くらい。

カルメネールは、コクと香ばしさのある料理と釣り合う。山椒の効いた麻婆豆腐なら、香辛料の香りが響き合う。マイポのカベルネには赤身の肉。白は酸がはっきりしているぶん、貝や白身魚のような淡白な海のものを引き立てる。