グラスに注ぐと、赤ワインなのに向こう側が透けて見える。ピノ・ノワールは色の淡い赤で、口に含んでも渋みが舌をこすらない。イチゴやチェリーのような赤い果実の香りが立つ。
どんな赤か

色は明るいルビー色。若いうちは濃く、時間が経つほど淡くなって、やがてレンガ色に寄る。香りは、イチゴやチェリーのような新鮮な赤い果実に、胡椒やシナモンのような香辛料が重なる。
口に含むと丸い。渋みはしっかりあるのに繊細で、口の中を強くこすらない。カベルネ・ソーヴィニヨンのように渋みで押してくる赤とは、飲んだ瞬間の手触りが違う。
このブドウは果皮が薄く、果汁は無色だ。赤い色は、果汁を果皮と一緒に置くことで引き出している。だから果皮を使わずに造れば、黒いブドウから白いワインもできる。ブルゴーニュの泡「クレマン」に、ピノ・ノワールから造った白のブラン・ド・ノワールがあるのはそのためである。
ブルゴーニュ——村が変われば、味も変わる
ブルゴーニュの赤は、主にこの品種で造られる。「ブルゴーニュ」とだけ名乗る赤は、イチゴやチェリー、カシスの香りに、熟成すると胡椒や森の下草、茸の匂いが加わる。ジョゼフ・ドルーアンの一本は、ラズベリーや野イチゴの香りとしなやかな渋みで、フレッシュな飲み口をしている。

村の名前が付くと、同じ品種でも顔が変わる。北のジュヴレ・シャンベルタンは、イチゴやブラックベリー、スミレの香りを持つ力強い赤で、コクがあり、渋みはきめが細かい。南のヴォルネイは、生き生きとしたルビー色で、スミレとスグリ、チェリーの香り。口当たりは軽やかで、すっきりまとまる。
同じブドウ、同じ地方で、力強い赤とすっきりした赤が並ぶ。ブルゴーニュで村の名前が語られるのは、この差があるからだ。
ニュージーランドとオレゴン——赤い果実と、黒い果実
ニュージーランドのピノ・ノワールは、地域ごとに果実の色が振れる。マールボロはラズベリーやチェリー、プラムの赤い果実で、渋みは整っていて、軽い酸が全体をすっきりさせる。北島のワイララパは、より暗い果実の香りで、ダークプラムやチョコレートの方向へ寄り、渋みは細かく長い。
南のセントラル・オタゴは、地区によって甘くやわらかい赤い果実の側と、厚みがあって渋みも強い黒い果実の側に分かれる。
アメリカのオレゴン、ダンディー・ヒルズのピノ・ノワールは、明るい赤い果実に、土やトリュフを思わせる香りが混じり、口当たりは絹のよう。ドメーヌ・ドルーアンがこの土地で造っている。
熟成で出てくる、キノコや革の香り
熟成向けに造られたピノ・ノワールでは、時間とともに香りが動く。若いうちの新鮮な赤い果実に、ジャムやキルシュのような煮た果実の香りが加わり、野生のキノコやトリュフ、革や毛皮を思わせる匂いが出てくる。色も淡くなっていく。

どのピノ・ノワールもこう変わるわけではない。棚で見かける手頃な一本は、置いて待つより、いま開けて赤い果実の香りを取るほうが向いている。
料理と温度
温度は16℃前後。低すぎると渋みが硬く出て、高すぎると香りの輪郭がぼやける。
渋みが強すぎないので、赤ワインの中では醤油の味付けに寄り添いやすい。ぶりの照り焼き、焼き鳥の塩、青椒肉絲。サーモンや鶏のような軽い皿にも、鴨や仔羊のような赤身にも届く。合わせる相手の幅が、この品種の使いどころである。