メルローは、口当たりのやわらかい赤だ。渋みはしっかりあるのに角が立たず、ベルベットのようになめらかに感じられる。ボルドーでいちばん多く植えられている黒ブドウでもある。
どんな赤か

香りはチェリー、プラム、イチジク、スミレ。渋みはあるのに角が立たず、口の中で丸くほどける。果実味はジューシーで、まろやかで、やさしい甘みを感じさせる。ただしこれは果実の風味であって、ワイン自体は辛口である。
やわらかい=軽い、ではない。色は濃く、アルコールは高めで酸は比較的低い。丸さと力強さが同居する赤で、軽やかでフルーティーなものから、凝縮した濃いものまで幅がある。
熟すのが早い品種で、ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンより先に収穫する。芽吹きも早いぶん、春の霜に弱い。
ボルドー右岸——サン・テミリオンとポムロール

この品種が主役になるのが、ボルドー右岸のサン・テミリオンとポムロールである。サン・テミリオンの赤に共通するのは、まろやかさとなめらかな口当たり、そこに寄り添う心地よい爽やかさ。香りは野イチゴや赤スグリ、やさしいスパイスとバニラで、ときになめし皮やスモーキーな方向へ揺れる。
ポムロールはボルドーでいちばん小さな地区で、畑の8割をメルローが占める。ここの赤はなめらかで、スミレと小粒の赤い果実にトリュフの香りが重なる。

メルロー主体のワインは、右岸だけで造られるわけではない。左岸のオー・メドックにあるシャトー・レイソンは、サン・テミリオンに似た粘土石灰質の土壌で、メルローを主体にした赤を造っている。
イタリア、ナパ、チリ——同じ品種の別の顔
イタリア北部のアルト・アディジェのメルローは、ブラックベリーやカシス、煮詰めたプラムといった黒い果実の香りになる。
カリフォルニアのナパでは、この品種はもともとカベルネに厚みとやわらかい果実味を足すために植えられ、いまは単独でも造られている。チェリー、プラム、月桂樹の葉、バニラ、燻した杉の香りがつく。チリでは、なめらかで飲みやすい赤として広く造られている。
イタリアのフリウリで造るストゥルムのメルローは、チェリーや野生のベリーの香りのあとに甘草やバルサミコのニュアンスが続き、渋みは絹のよう。日本にも畑があり、長野・安曇野池田のグランポレールは、ベリーの香りと上品な樽香に、やわらかく緻密な渋みを持つ。
若く飲む一本と、置いて変わる一本
手頃な値段のメルローは、置かずに若いうちに飲むために造られている。買ってすぐ開けて、チェリーやプラムの果実味とやわらかい口当たりを取るほうが向いている。
長く置いた一本では、香りが変わる。果実の香りに、チョコレートやコーヒーを思わせる匂いが重なることがある。
料理と温度
温度は14〜18℃くらい。
料理は幅が広い。トマトソースのパスタ、ビーフシチュー、デミグラスソースのハンバーグ、とんかつやメンチカツのようなソースをかける惣菜。仔牛やジビエ、ハードチーズにも合う。渋みで押してこないので、強い肉料理でなくても釣り合いが取れる。