小学生の湊が、急におかしな行動を始める。母の早織は、担任の保利先生が息子へひどい言葉を投げたと知り、学校へ説明を求める。校長たちは頭を下げるが、答えはかみ合わない。『怪物』は、悪い教師を見つける映画として始まる。しかし、同じ日々を母、教師、子どもの側から見直すと、事実は同じでも、誰を怪物だと思うかが変わる。その反転を追う映画だ。
ひとことで言うと
息子の湊が傷を負い、教師から侮辱されたと話す。母の早織は学校へ抗議し、担任の保利を追及する。だが、物語は途中で時間を戻し、同じ出来事を保利の側、湊の側から見せ直す。
見る位置が変わるたび、それまで悪者に見えた人の事情と、見えていなかった子どもの関係が現れる。謎解きよりも、早く決めつけた自分の見方が更新される感覚が面白い。
まず3人
| 人物 | まず覚えること |
|---|---|
| 麦野早織 | 湊を一人で育てる母。息子の傷と異変を見て学校へ向かい、納得できる説明を求める |
| 保利道敏 | 湊の担任。最初は子どもを傷つけた教師に見えるが、本人の視点では別の出来事が起きている |
| 麦野湊 | 早織の息子。言動が不安定になり、母や教師へ本当の気持ちを説明できないでいる |
最初は、息子を守ろうとする早織、責められる保利、何かを隠す湊の三人だけ分かればよい。
ネタバレなしの始まり
早織は、湊が水筒へ泥を入れたり、自分の髪を切ったりすることに気づく。湊は、保利から自分の脳を侮辱する言葉を言われたと話す。早織が学校へ行くと、校長と教員たちは用意されたような謝罪を繰り返し、何があったのか説明しない。
ここまでは、母と学校の対立に見える。ところが映画は時間を戻し、保利が見ていた教室と家庭を映す。さらに子どもの視点へ移ると、大人が問題だと思っていた行動に別の理由が見えてくる。
なぜ話題になったか
是枝裕和監督の『怪物』は、坂元裕二が脚本を担当し、坂本龍一が音楽を手がけた。2023年のカンヌ国際映画祭で、坂元の脚本が脚本賞を受賞した。
話題の中心は、一つの事件を三つの視点で反復する構造にある。新しい証拠を後出しして驚かせるだけでなく、同じ言葉や行動の意味を変える。観客自身が、限られた情報で誰かを悪者にした過程まで見直すことになる。
面白いポイント3つ
1. 同じ場面が、別の感情に見え直す
母の側では冷たい謝罪、教師の側では混乱、子どもの側では隠したい事情。同じ廊下や教室を通るたび、前に見た場面の意味が変わる。
2. 大人の言葉が、子どもの内側へ届かない
母も教師も湊を心配している。しかし「何があった」と聞く言葉では、湊が恐れていることに届かない。善意があることと、相手を理解できることは別だと見せる。
3. 音と場所が、説明より先に関係を伝える
管楽器の音、火事、線路、廃車両、雨。繰り返し出る音と場所が、湊の内側と、もう一人の少年との時間をつないでいく。
ここまでで、早織、保利、湊の三人と、息子の異変を学校へ訴える母の物語が、教師、子どもの視点へ移るたび別の出来事に見え直す映画だと分かりました。続きでは、三つの視点が重なって初めて見える子どもたちの関係と、怪物という見方を問い直す結末を整理します。
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